たかが釣りに詳細な地図読みが必要か。そういって笑うひともいるに違いない。地図読みが要らないのは誰もがやっている釣りの場合だ。みんなと同じ場所で、ほとんど釣れない釣りをやり、たまに運がよければちょっと大釣りをする。そんな釣りの場合である。しかし、どんな種類の釣りであろうとも、その道のパイオニアになろうとすれば、周到な準備が必要なのだ。パイオニアは、他人より大きい魚を、たくさん、いつでも釣ることのできる釣り人である。私はそういう釣り師になりたいとおもっている。

  むかしは、私も誰かが書いたフィッシング・ガイドブックを読みあさって、現地に行ってみたことがある。しかしそんなところで、いい釣りができたためしがない。当たり前だ。著者は自分が大事にしたい名釣り場を安易に本に書くはずがない。そんなことをしたら、その釣り場は多くの釣り人の手垢がつき、ゴミがあふれ、荒廃するに決まっている。

  道北の河川については私もそうとう詳しくなったが、それでも未踏の部分がたくさんある。もちろん釣り場情報も少ない。そんな時、私が一番たよりにするのは、地形図である。とくに国土地理院の発行する2万5千分の一の地形図がよい。登山をやっていたときも重用したが、川釣りにも当然使っている。一枚の地形図を広げて、じっくり30分も眺め、川筋をたどり、屈曲を確認する。どこから川に入り、ずっと釣りあがって、どこから出るかを想像する。

「このルートはいったい何時間かかるのだろう」

「非常事態が発生したら、どこから脱出すればいいのだろう」

 そういったことを、ひとつひとつ想定する。
 
 最近では、地形図から魚の付き場を見抜くことがある程度できるようになった。イトウ釣りの場合、川の合流点、屈曲部、川が細くなっている所、河跡湖と本流がかつて合流していた所中州、河口部は釣れると判断する。
合流点のうち大きな川どうしが合流する場所はもちろんよいが、大河に溝のような小川が流れ込む所も見逃せない。小さい方の川の最下流部に巨大魚が待ち受けていることはなんども経験した。場所は言えないが、私はそういう釣り場をいくつか知っていて、増水期にはそのポイントだけを攻めてみる。川に入って、他にはわき目もふらず1m四方のある合流点のみに賭ける。大事なのは、第1投である。針の穴を通すような正確なコントロールで、ルアーをそこへ放り込む。そして祈る。リールを二三回巻いたところで、ガツンと来たら、もうこっちのものだ。

 屈曲部には、渕ができる。屈曲部の外縁となる側は水流でえぐれて、深みを作っている。いっぽう内縁側は浅く、砂浜ができることもある。魚はどちらに居着くともいえないが、屈曲部にはいるとみていい。川の規模にもよるが、どちらかというと内縁の側からキャストしたほうが釣りやすい。容易に移動できるし、掛かった場合の取り込みが簡単である。

 地図上で、川幅が細く記載されるのは大河だけである。そういう所は当然浅い瀬ではない。平瀬か、荒瀬か、渕になっている。川の流れに変化が生じている。川幅はときには大きく変わってしまうこともあるので、地形図だけを信用できるわけではないが、釣り場さがしのヒントにはなる。


 河跡湖は大河がかつて流れていた流路である。いまは本流とつながっていなくても、その痕跡は本流側に残っている。旧河の流入部と流出部は深いことが多い。ここに魚が付く。

 中洲は大河にできる島である。そこには両側にすくなくとも2本の流れが生まれる。水量から、主流と副流に分かれるが、もちろん主流の方が期待できる。しかし、主流が荒瀬で、副流がトロ場といった対照的な構造を有する中州もあって、興味が尽きない。

 河口部はイトウのような降海する魚ならかならず通過する所である。海水と淡水が入り混じった汽水域は、魚の種類が多く、どこの川でも好釣り場である。こういった所は足場がよく進入が容易だから、釣り人が多く、とっくのむかしから釣り人たちに知れ渡っている。

 地形図から読み取れる釣り場で、いちばん期待できるのは、車道から遠く離れて、他の釣り人が容易には進入できないポイントである。パイオニアたる者は、なんとしてもそこへ到達して、竿を振りたい。私は道北でもう15年間も釣りをしているが、気になっているのにいまだに到達できないでいるポイントや流域が残っている。そこを確かめないでイトウ釣りをやめるわけにはいかない。

A word of JHPA president