342話 炸裂

 

 2024年のイトウ釣り開幕以来6月にはいっても、釣れるのは50㎝前後の中高校生ばかりで、なかなかイトウらしい面構えの1匹を拝むことができなかった。そこで、普段はあまり足を向けない中流域のややこしい河畔林に囲まれた流域に挑むことにした。

 久しぶりに来て、ずいぶん釣りやすくなったと感じた。まだイタドリが伸びていないので、見通しがよい。踏み跡はあるので、釣り人は来たことがあるようだ。河川水位は増水でも渇水でもなく、ほどよい水位である。碧黒く、魅力的な水がゆったりと流れている。

 この水域の難点は、水中に沈木が隠れていて、深く潜るルアーを通すと、たちまち引っかかってロスしてしまう。したがってイトウ狙いなのに、シャロー用のルアーを投げなければならない。私は、Shore Line Shiner Z VERTICE (s)というルアーを使うことにした。岬のような釣り座に立ち、上流方向に遠投すると、かなり飛距離が出る。まずは挨拶がわりに、左岸よりから、180度広く扇形にキャストして、反応を探ったが、まったく沈黙である。

 つぎの釣り座に移るのに、水際を移動できないのだ。一度川岸を登り、20mほど下流で降りる。しんどいなと痛感する。75歳の弱った足腰に鞭打って、頑張るしかない。2つ目の釣り座に降りて、足場を固めた。川岸寄りの深さは、それほどではないが、泥床で落ちると足抜けが難儀だろう。川中には入れない。

 さてこの釣り座からどう攻めるか。上流側には両岸から水中木がせり出して、狭い水路になっている。イトウがいるとしたら、あの水路の底だろう。私は、ヒット後のやりとりを想定して、どこでどう掬うかイメージした。

「よし。やろう」

 水路の真ん中に1投目のルアーを投入して、ゆっくりと曳いた。その刹那だ、ドバっと水柱が立った。本当に居たのだ!

 魚はかなりな手応えで、一気に潜った。ロッドがグングンとしなり、水面には複雑な波紋が渦巻いた。大事なことは、ブッシュから魚を遠ざけることだ。竿の力技で、自由水面に引き出した。思い出してGOPRO撮影のボタンを押す。ヒット前から撮影しておけばよかったが、もう遅い。リールに巻いたラインは25ボンドオーバーだから、切れる心配はない。魚が浮上して、あらためてイトウだと認識した。よし、ばらさないぞ。

 一進一退のファイトは長続きしなかった。私は強引に岸近くに寄せてきて、あぐらをかくような姿勢でタモ入れした。うまく一発で決まったとき、私は思わず「ギャー」とも「ウワー」ともつかない野生の音声を発した。よほどうれしかったのだ。

 イトウはタモの中でのたうち回ったが、もう逃がさない。まず岸壁に魚体を押し付けるようにして体長を計った。72㎝だ。次にバネバカリでタモごと計ると、5.7㎏あり、タモの自重1.4㎏を差し引くと、体重は4.3㎏と分かった。この川のイトウは肥満ぎみである。水温は電子水温計で10.9℃を示した。

 データを記録したところで、写真撮影に移る。直射日光は届かないが、全体に明るく、シャッターを切るのに苦労はない。グリップを口から鰓ブタに通して、水中に魚を放つとやっと暴れなくなった。

 最近覚えたテクニックだが、GOPROを頸から離して、適当な地面に置き、自分が映るようにする。その上で、イトウを抱っこすると、抱っこ動画が撮れる。静止画は、パソコン上で、スクリーンショットすればどの瞬間でも切り取れる。

 こうして、2024年初の良型イトウを釣りあげ、川に放した。ほっとした。ご苦労さんだった。