337話 私の宝物

 

 私はモノを貯めこむ性癖があり、どうしても家内のスペースがそういうモノで埋まっていく。けっして高価なお宝ではなく、他人にとってはガラクタとしか映らないモノも多数ある。今回は、イトウ釣りにまつわる宝物をひとつ紹介しよう。

 群馬県渋川市に住む陶芸家の松尾昭典さんが作ったイトウのランプシェードである。

 松尾さんは、生業として食器を作る職人だが、いっぽうで魚類の陶芸を創作する芸術家でもある。食器は肉厚の落ち着いた陶器で、我が家では松尾食器がメインの食器であるが、紹介したいのは、リアルな陶芸の魚の方である。魚ならば鯛や鮃といった海水魚から、鯉や虹鱒といった淡水魚までなんでも挑戦して、じつに生きて泳いでいるような細密で質感たっぷりな焼き物をこしらえる。どうやって作るのかはまったく知らないが、形も色も大きさまでも本物そっくりなのである。

 古い話で申し訳ないが、1999年に「イトウ 北の川に大魚を追う」という写真文本を阿部幹雄との共著で作り、東京新宿の京王プラザホテルにあるニコンサロンで阿部が同名の写真展を開催した。その写真展にわざわざ群馬から松尾さんがやってこられた。「自分はライフワークとして陶芸で魚を表現したいが、日本最大の淡水魚イトウにもぜひ取り組んでみたい、そのためにイトウをよく知りたい」というのだ。もちろん私は資料を提供し、アドバイスすることを快諾した。

 しばらくして松尾さんから届いた長大な荷物には驚いた。体長70㎝にも及ぶイトウの陶芸だ。質感は十分で、背中側から見ると、釣りでヒットした際に陸から見るイトウにそっくりだが、頭部はややワニにも似て、すこし実物とは異なっていた。それから何度かのやりとりがあって、届いたのがランプシェードであった。大きさは50×25×20㎝で重量感もある。

 ランプシェードの頭部は、私のイトウ写真を参考にされたそうだが、完璧なメーターイトウだった。金冠をまとった眼は下方をにらみ、大きく開いた口は、小魚をくわえ込みそうだ。左の胸びれは大きく、バランスをとっている。ランプシェードであるから、暗闇で、内部の電球に通電すると、イトウの口、眼、黒斑から光が漏れる仕掛けになっていて、これが妖しく光り室内に投影する。まるでプラネタリウムのようだ。この陶芸はイトウ釣り師なら誰もが欲しがるに違いない。松尾さんにとっても自信作になったようで、いくつかこしらえて販売もされるようになった。

 その後も交友はつづき、いまも年賀状や、地元での魚の陶芸展の案内が届くとうれしい。

 釣りにはいくつもの喜びがある。釣行前の期待、実釣の感動、釣りを振り返る懐旧。しかし、それ以外にも釣りの外伝として、手元にあるとうれしい宝物もたくさんある。松尾さんのランプシェードもそうだが、矢口高雄さんの釣りキチ三平の色紙、殿堂入りした数々のルアー、イトウの会の川村が企画したオリジナルグッズ等など限りがない。

やがて私も足腰が立たなくなったら、毎日、自宅で宝物に囲まれて「古き良きイトウ釣り」を思い出すだろう。