334話 夏の宴 

 

 イトウの会では、7月半ばの夕方、3年ぶりの会合と宴を開催した。イトウの会ホームページ開始から20周年の祝賀会も兼ねることになった。

集まったのは9人である。うち8人は以前からのメンバーだが、今回は68歳の「新人」が参加したのが嬉しかった。声をかけたが都合がつかず、不参加となった会員から高価なウイスキーが届いた。ありがたいことで、拍手が起きた。

われわれは釣りクラブであるが、イトウ釣りだけやっているわけではない。海釣り専門家もいる。釣りをまったくやらない人もいる。細かな会則などなく、イトウ愛好者であればよいのだ。以前は年に23回は懇親会を開いていたが、コロナ禍で3年間ほど集まれなかった。やっと親睦会ができるようになったことが喜ばしい。

会を取り仕切るのは川村で、いつも会場選定から始まって、準備、進行、土産まできめ細かな対応で参加者を楽しませてくれる。

今回の会場はラ・セーヌというフランス料理店であるが、我々は螺旋階段を上った二階に集まった。部屋には小テーブルを集めて長方形の大テーブルができていて、10人ほどの会議と会食に最適である。ビールのサーバーやグラスも整っている。さらに、講演に備えてプロジェクターとスクリーンも川村によってスタンバイされていた。私は自分のモバイルパソコンを持ち込み、恒例のイトウ講話をやることになっていた。

こうしてイトウの会夏の宴は始まった。まずはシャンパンで乾杯だ。店はフランス料理店であるが、客の好みによって焼き鳥やつくねも出るのが、ありがたい。

機が熟したところで、私がスライドショーをやる。基調講演というほど堅苦しくはないが、2019年から2022年までのイトウ釣りの状況を語った。とくに2021年の猛暑によるイトウの大量死については、そのときの状況を生々しい写真を使って詳細に述べた。ただし、その後も同じ川で釣りをしているので、若魚が増えるなどイトウ復活の兆しもあることを付け加えた。

古い写真にはそのころの懐かしい会員たちが登場して歓声があがった。稚内を去った人びとも、わりにホームページを閲覧してくれているようだ。

イトウ釣り師という人びとは、一匹狼が多く、われわれのイトウの会のように、集団で取り組んでいるクラブはほとんどあるまい。ただしわれわれはイトウ愛好家ではあるが、自然保護団体ではない。あくまでフィッシングファーストなのである。北海道のフィッシングルールは厳しく守っているが、他の思惑の団体の影響は受けない。

ホームページでは、地元ならではの最新情報を発信し、イトウ釣りによるさまざまな数字を開示して、単なる釣り自慢にならないように努めているが、どうも最近は閲覧者数が減少傾向にある。いまは、ホームページよりもインスタグラムなどのSNSに人気が移り、愛好家が、情報源としてパソコンよりスマホを愛用していることが分かってきた。私も釣り友の勧めで、インスタグラムの登録をして、ぼちぼち投稿し始めているが、閲覧者の反応の早さには正直驚いている。イトウの会会員にもインスタグラム愛好者がいて、さまざまなアドバイスをくれた。しばらくは、ホームページとインスタグラムの併用で様子をみたい。

話は尽きないが、料理が出そろい、各人のアルコール血中濃度も上がったところで、川村から土産のグラスとコースターの講釈があった。前者にはイトウの会20周年の刻印がほどこされ、後者には雄雌2匹のイトウが絡み合うデザインが描かれていた。いずれもプロの手になるアートである。こうしたイトウの会グッズはすでに十指に余るほど製作されて、よい思い出になっている。

 宴がお開きになり、私と68歳の新人はほろ酔いの足取りで、帰宅の途についた。翌日は、新人にイトウを1匹釣らせなければならない。