324話 2022前半の状況 

 

 2022年のイトウ釣りシーズンは苦戦するだろうと当初から思っていた。その理由のひとつは2021年夏の猛暑により、イトウが大量死したことによる。2022年春のイトウ産卵状況では、猿払イトウの会が公表しているように猿払川水系のイトウ産卵床が減少している。分水嶺の西側でも同様な現象が起きていることが、われわれや仲間の釣り師が確認している。仲間のひとりは、孵化したイトウの稚魚の数が少なく、少ないので競争が緩和されて、個体は大きめだという。

もうひとつは、地球規模の気象変動で、道北も温暖化しつつあることである。ここ数年、夏の宗谷では雨が少なく、河川水位が常時低く、イトウが居つくには水量が足りない。水量が少なければ、餌魚の数も減り、いっそうイトウが生息しづらくなる。さらに温暖化しつつあることから、以前は少なかったカワウが大量に北上していて、イトウのポイントに常時出没するようになっている。もちろん50㎝を超えたイトウがカワウに食われることはないが、それ以下だと食われることもあろう。カワウが潜水を繰り返すと、その場でイトウが釣れることはほぼない。

 私はイトウの生息状況を調べるには、釣りが最良の手段だと考えている。一般的な調査では、観察しやすい産卵期に遡上する親魚の数や産卵床の数を数えるやり方行われる。しかしすべてのイトウが産卵に参加するわけではない。産卵期以外の調査は、捕獲するしかないが、網や電気ショックを使用すれば、これによってイトウを殺すことにもなりかねない。釣りによる捕獲なら、習熟すれば殺すことはほとんどない。2020年シーズンまで道北のイトウの生息状況は増えてもいないが減ってもいない安定状態であったと推測される。これは現在のイトウ釣りでほとんどキャッチ・アンド・リリースがマナーとして守られているからだ。

釣りによれば、例えばルアーの大きさを調整することにより、20㎝級からメータークラスまでまんべんなく調査することが可能である。私は1994年から毎年同じ川で、ほぼ同じ時間を釣りに使っている。そのデータはホームページ上で公表しているが、変動はあるものの安定した数値が記録された。すくなくとも2020年までは。

ところが、2021年の夏の猛暑で、イトウが大量死した。その事実をいち早く知ったのは他でもない釣り師であり、私もホームページで緊急に警鐘を鳴らし、それを見た朝日新聞記者が、どのメディアよりも早く、87日に記事を載せた。

2022年にも例年どおりイトウ釣りを開始し、いまシーズンの前半が終わったところである。釣果は予想通りの激減である。しかし、事実は数字で実証すべきものであるから、釣れないことを前提にしても釣りは続けている。

私が釣りをするフィールドでいままでに分かったことを挙げてみよう。過去のシーズンと比較して、釣果は減って1/2から1/3である。目立つのは、大型が減り、小型がそれほど減少していないことである。一方イトウがまったく釣れない水系はない。つまり絶滅した川はない。

 私以外の釣り人に聞いても、同様なことをいう。

希望もないわけではない。大量死した川に2030㎝級イトウが復活していたからだ。おそらく2年魚、3年魚だと思うが、あの猛暑時をどこでやり過ごしたかを考察した。すると、水温の低い溝の存在が浮かんだ。いくつもある農業用の水路がそれだ。そうか、大魚は入れないほどの水路で、じっと耐えたのか。偉かったなあと思う。やがて彼らが生長し、子孫を残してくれるだろう。

貧漁をいとわず今後も釣りつづけることで、あらたな事実が判明するかもしれない。それが宗谷のイトウの明るい未来を予測させる事実ならうれしい。