317話 一気の冬到来 

 

 地球温暖化のためか、10月に入っても高気温、高水温がつづき、河川水位の渇水が変らない。当然ながらイトウが釣れない日々に苦悩した。

 この夏の猛暑で大量のイトウが死んだ影響なのか、それともイトウが降海して河川にいないのか判断がつかなかった。例年なら10月半ばはイトウ釣り秋の陣で、越冬を前に荒食いしてプリプリに肥ったイトウが、あちこちで釣り上がるころなのだ。いったいどうなったのか。

 10月中旬の日曜日、前夜来の豪雨で、宗谷の各河川水位は一気に上昇した。いっぽう気温は急降下して、稚内では平地としてはこの秋全国で初めて雪が降った。ホームリバーでは寒風の中竿を振る釣り人の姿も見られた。釣りシーズンの終盤を惜しむように、我慢の釣りをしていた。

 私は上流を目指したが、そこは気温2℃で、濁流が溢れんばかりに膨れ上がっていた。釣りにならないので、あきらめて逃げて帰った。午後まで自宅で待機した。

 午後になってから、もう一度釣りに出かけた。大雨でイトウは支流に退避しているに違いない。そう推測して、支流へ目をつけて行ってみた。支流は透明部が徐々に増えて、濁流を本流へ押し返すところであった。ちょうどいいタイミングできた。

 支流は静かに流れ、水温は9.7℃である。誰も釣りに入った形跡がない。川岸のヨシを倒し、広めの釣り座を作った。そこで10投ほどルアーを投げてみたがまるで反応がない。場所を上流に移動して、おなじ作業を繰り返した。ここでも出ない。

 川全体を望める高台から、しばらく川面を観察した。本流には西風によってさざ波が立っていた。ふと手前に目を移すと、本流との合流点までの中間点にはっきりしたライズがあった。「む。なにかいる」

 そこへ急いだ。さっそく釣り座をこしらえる。川岸にへたりこんで、足を垂らし深さも確認した。さて、やるか。その前にGoPro撮影をオンにした。第1投目を、上位流側に放ち、グリグリとリーリングを始めたところ、いきなり魚が食った。しばらく忘れていたイトウの魚信である。思わず「来たあ」と叫んだ。

 まだ透明と濁りの境目で、泥色が勝る川だが、魚はそこを元気よく疾走した。ラインは、黄色の7号ナイロンラインで、この川では切られる心配はない。久しぶりの引きを味わい、楽しみながら、取り込みの準備をした。イトウが浮上したところで、柄の長いタモを突き出し、胡坐をかいたようなスタイルで、タモにイトウを流しこんだ。

 イトウは67㎝・4.7㎏となかなかのサイズであった。おそらく荒食いした餌魚が腹にはつまっているのだろう。

 イトウを放ち、車まで落ち葉を踏みしめカサコソ音をたてながら、秋を満喫した。

 晩秋になると、週末にイトウ1匹を釣ることが非常に難しくなる。だから、どんな1匹でも格段にうれしい釣果だ。とくに突然路上で頭を殴られたような冬の到来の当日に、イトウが釣れたのは大きい。

 稚内大沼のバードハウスには、野鳥好きの人びとが集まっているのか、車が並んでいた。ハウスの前浜には、サハリンから帰還したハクチョウが集まっていた。首を縮めて強風に耐えながらハクチョウは旅の疲れを癒していた。

 冬が来た日の短い昼間が終わろうとしていた。