315話 深渕 

 

 2021年の河川渇水は夏を過ぎても変わらず、秋に及んだ。稚内を起点に近在の河川で釣りをする私には、期待できる釣り場がなくなった。

苦肉の策で、普段なら到底立ち込みなどできない深い渕を攻めてみることにした。ホームリバーの上流部に位置するこの渕は、たまにモンスタークラスのイトウが定位していたりする。岸辺は傾斜地になっていて、ヒットしても大物の取り込みは難しい。だから渇水時を狙って、川中から釣ることにしたのだ。

9月初旬、偵察がてらに下流に立ち込み、すこしずつ深さを確認しながら、釣りあがった。縦長の渕の中間に位置する大プールは長さ10メートルほどで、ここがポイントになる。そこにルアーを投入できるかが鍵となる。例年の深さならおそらく首深となり溺れてしまう。しかし大渇水のことしは、胸深くらいでなんとこ立ち込むことができた。なんとかキャストする態勢を保ち、バイブレーションルアーを投入し、ゆっくりと曳いてくると、魚信があり、中学生イトウがスレでヒットして暴れた。下流に引っ張っていき、体長41㎝を確認した。嬉しい1匹である。

翌日も同じ深渕にやってきた。おそらくまたイトウがいるであろうと自信があった。今回はGOPROも首に掛けていた。3投目のキャストで、ゴンと明瞭なアタリがあり、竿先が沈んだ。今回は、ややサイズがアップして、57㎝・2.4㎏のイトウであった。

そこで翌翌日も来た。さすがに3日連続では無理かと思ったが、やってみないと分からないのが釣りだ。大プールの渕尻に立ち、慎重に構えた。1投目、2投目に反応なし。「さすがに駄目かな」と思いながら、3投目を最奥にまで飛ばし、ゆるゆると曳いてくると、釣り師の手前まできて、ドシンと食った。手ごたえは前2匹とは異なり、明らかに大きい。腰からタモを引き抜き、ちょっともたつきながらネットインした。3匹目は77㎝・5㎏の立派な魚体であった。

徐々にサイズが伸びてきたので、いよいよモンスターが登場するかもしれない。4日連続して、また来た。ドキドキしながら、キャストしたが、さすがにそうは問屋が下ろさなかった。こうして深渕狙いはひとまずお開きとなり、つぎの降雨待ちとなった。

結局その後は、イトウの反応がないまま季節が深まってきた。秋になっても少雨、河川の渇水は変わらず、イトウを釣ることが非常に難しくなった。イトウが居ることは間違いないが、容易には出てこない。河川の森のような密林帯に潜り込まれると、釣り様がない。

過去のデータから、季節、水温、水位、天気などから割り出した釣り場は、いままでも貧果を打開してくれたが、ことしはなかなか手が打てない。それだけ想定外の河川状況になっているのだ。

そうこうしているうちに10月に突入した。どこに行けばいいのだろうかと、途方に暮れながら、上流のとある小さな渕を目指した。水位からして、イトウは居そうにないと弱気だった。ヤブをこいで河川敷に降りたった。川は浅く、透明だったが、妙に小魚がたくさんいた。なにか起きるかもしれない。そう思った。