312話 会心の立ち込み 

 

 イトウ釣りでスランプに陥ると、金輪際釣れなくなるものだ。そんな時には、過去にスランプを打開した釣り場に物は試しにやってくる。

 5月下旬の午後、私はかつて「絶対ポイント」と呼んでたいそう頼りにしていた中小河川の淵頭にやってきた。どんなに釣れなくても、最後に助けてくれる名釣り場だった。しかし近年は「絶対ポイント」とはいえないほど、釣果には恵まれなくなっていた。

 河川敷を横切り、入川地点から静かに川に立ち込んだ。水温13.5℃、川は適度に増水し、ほどよく流れていた。最深場ではつま先だって歩いた。ここから100メートル上流に「絶対ポイント」がある。この水位ならば、腰深ほどの渕をゆっくり遡行しながら、上流へとバイブレーションルアーを投入しては、リーリングする。いつイトウが出るか分からないので、緊張を保ちつづける。

 この日も川は沈黙しつづけた。あと2回キャストすると渕頭に届いてしまう。「ダメかな」と若干あきらめかけた時、右腕か勝手に動いて、左岸のボサのある小さな巻き返しに見事にルアーが着水した。リールを巻き、リズムよくトゥウィチを入れる。4回か5回リールハンドルを巻いたとき、いきなり衝撃が来た。

「ダァー、来たー」思わず叫んだ。

 魚は私の立つ下流側に突進し、糸鳴りを響かせながら疾走した。私のリールのドラグはきつく締めてあるので、糸を引き出すことができない。そこで魚は私を中心に回ることになる。今回は反時計回りである。私はロッドを両手で支え、魚の動きにひたすら耐えて、疲労を待つ。2回ほど回ったあと、ついに魚は水面に浮上した。勝負ありだ。やおら右手で腰ベルトからタモを抜き、構える。左手の竿をコントロールして、魚を近づけると、一発でタモ入れした。銀鱗を光らせた良型の美しいイトウだった。

 まずは魚の口に刺さったシングルフックをニッパで外す。次にバネバカリでタモごと吊り下げ、7.4㎏を読み取る。タモの重量を差し引くと、魚は6.4㎏ということだ。体長は、タモ網の外から土手に押し付けるようして75㎝と読んだ。えらく肥っている。あとは、カメラ袋からオリンパスを取り出して首に掛け、タモ網内のイトウにシャッターを切った。さらにイトウにグリップをかませ、タモから解放して水中を泳がせた。それを撮影した。10枚ほど撮って、グリップを開き、イトウを放った。身をひるがえして消えた。流れるような一連の作業だった。

 私は水温や、入川時刻、ランディング時刻、イトウの体重と体調を手帳に記載した。そしてその場で川を上陸した。今回は、さらに楽しみが待っていた。入川時からイトウのヒット、さらに一連の作業まで、丸ごとGOPROで撮影したのだ。

 車に戻ると、さっそくGOPROを再生した。首掛けカメラの位置、角度は悪くない。動画の迫力は小さな画面からも伝わる。記録としても会心の出来だ。