311話 GOPRO撮影 

 

 5月の中旬になったばかりの夕方、ホームリバーに足を運んだ。空は五月晴れで、吹く風はおだやかな釣り日和であった。気温は7℃、水温は8.1℃の好条件だった。

この日は15時から下げ潮にかかっており、なにかしら良いことがありそうであった。車を置き、まだ植生の繁茂がない快適な川岸を歩いて、定位置に立った。川は幾分増水し、やや濁っていた。対岸を見ると、数台の車が停まって、釣り人はきれいに等間隔をあけて竿を振っている。

 さて始めよう。まずは上流へ一投する。ルアーは黄色のMM13 である。なにも起きない。つぎは下流へ投じた。あたりの風景を望みながら、ゆっくりと曳いてきた。もうすぐピックアップの動作に入ろうとした瞬間、ジジジジーといきなりドラグ音が鳴りだした。なんと足元に大型イトウが潜んでいたらしい。

 ラインは急激ではないが、一定のスピードでどんどん出ていく。魚の走りは一向に止まりそう位にない。このヒットが口以外のスレであることは間違いない。魚が疲れるまでは止めようがない。ロッドを魚の進行方向とは逆に大きく寝かして、11フィート竿の剛性で耐えるしかない。

 ふと気が付いて、首に掛けたGOPROのボタンを押し録画モードにした。ヒット前から回しておけば理想的だが、いつヒットするか分からないのだから、事後でも仕方ない。それでもじつによい記録媒体ができたものだ。今回はヒットから15秒くらいで記録を始めた。録画ボタンを押すと、30秒前の録画にさかのぼるモードもあるらしい。慣れるまで更なる使いこなしが必要である。

 竿を右に左に寝かせながら、少しずつリールを巻いて、魚を近づけた。なかなか浮かないから、大物は間違いない。それでも5m圏内まで引き戻し、すこし竿をあおったら、魚の背中が水面に登場した。背びれにスレヒットしている。全体像はメーターイトウ級である。もう魚に潜る力はない。ここまで来るとタモ入れさえ失敗しなければ捕れる。

 タモ入れ一回目は拒否され、二回目にタモを差し出して頭から半分ほど入れ、ラインを引くとスポンと収まった。堂々たる巨体である。体重は8.6㎏、体長は97㎝で、もうちょっとでメーターのオスである。

 ただ残念なのは、このイトウが体側に大きな皮膚のただれがあり、可哀そうな姿だったことだ。原因が寄生虫疾患なのか、産卵行動による咬み傷が化膿したのか私には分からない。ルアーを襲う元気があるのだから、自然治癒してくれるものと思いたい。

 帰宅してからGOPROをパソコンで再生してみた。広角で撮影しているので、風景も竿の動きも、魚の作る水柱もしっかり映っている。もちろん釣り師の独り言も、野鳥の鳴き声も風切り音も記録されている。これは非常に面白く、いろいろと釣りの反省材料も見ることができる。

 以前にテレビの釣り番組を作ったことがある。そのころは釣り師以外にディレクター、カメラマン、音声担当ら34人のスタッフがいて、チームでやっていたのだ。「幻の魚イトウ」のヒットシーンを撮ることは大仕事だったが、いまは釣り師ひとりだけでできてしまう。ハイテクの時代はどうなっていくのだろうか。