307話 大アメマス 

 

 10月下旬の午後、ホームリバーに出かけた。私が狙った釣り場には先客がいたので、そこを通り越して、新しい釣り場に達した。川風景は秋の気配に満ち、流れはゆったりとして、気持ちがよかった。雨雲が去来し、時おり通り雨が降ったが、それは秋の気象で気になるほどではなかった。

 釣り座を整え、大きく息を吸って、大物に備えた。川幅は30メートルほどあり、竿を存分に振ってバイブレーションルアーがちょうど対岸近くに着水するのが良かった。私が一番好きな川幅なのだ。

 上流へ45度のアップへキャストし、ゆっくり引いてくると、フックが川床の落ち葉を拾った。案外浅いようだ。そこで少し早巻きして根掛かりを防いだ。そうしたキャストを数回繰り返したあと、川のど真ん中で、いきなりひったくるように魚が出た。なんとジャーとドラグが悲鳴を上げるではないか。大きく合わせをくれようとして、転んだ。慌てて起き上がって対処したが、魚はかなり下流に走っていた。そこでドラグを締めて、強引に引き戻すことにした。頭にあったのはメーターイトウである。

 ルアー釣りの場合、だいたいヒットするのは、ラインの巻取りが終わりに近づいて、ルアーが水面に向かって上昇する瞬間であるが、遠くでヒットする場合は少なく、それゆえにやりとりは十分堪能できるのである。ラインは25ポンドオーバーで切れる心配はなく、潜られるとまずい沈木流木も見たところはなかった。強引に岸への引き寄せると、岸際の壁に張り付いて動かなくなった。仕方なく、沖合側へと引っ張って、壁から引きはがした。その時、魚がイトウではなく、白斑を散りばめたアメマスであることが分かった。それにしても大きい。細身の割には尾びれが大きくパワフルである。しかもフックは背びれ近くの背中の皮膚に刺さっていて、完全なスレ状態である。これは慎重にやらないとバラシてしまう。強烈な下流方向への走りは止まったが、タモ入れが難しい位置に踏みとどまった。そこで、魚をやや上流側に引いて、持ちこたえ、下流側からタモを沈めて、間合いを測り、一発ですくうことができた。

 アメマスは、私の自己記録を大きく上回る80㎝で、体重も5.2㎏もあった。頭部と顎は遡上鮭のようにいかつく、身体の白斑には一部中抜けして、ドーナツ斑化しているものもあった。例年行われる島牧のアメマスダービーならば、優勝魚に匹敵する堂々たる魚であった。こんな大アメマスがホームリバーに遡上していたなんて驚いたが、もしかすると日本の河川ではなく、サハリンかシベリア原産の個体かもしれない。

 のちに本波幸一さんに写真を送って見てもらった。「川の80㎝のアメマスは、サハリンと稚内周辺をウロチョロしている個体かと思われます。おそらく90㎝もいますよ」とうれしい鑑定であった。彼によると、オホーツク海沿岸では、100㎝のアメマスもいるらしいという。

 アメマスを水辺に横たえて、あちこちから写真撮影した。やや魚から離れて、アメマスと後ろの川風景をいっしょに撮影した光景は、なかなか得られないグッドショットとなった。

 私はアメマスがイトウよりワンランク下の釣魚と位置付けていたが、この大アメマスを見ると、イトウに勝るとも劣らない北のモンスターであることを認識した。