306話 王者の写真 

 

 2020年のことし撮影した写真を1月から順番に点検して、あることに気が付いた。ことしは、冬のオオワシ、春から秋までのイトウ、さらに夏のヒグマと宗谷の王者の写真がそろっているのだ。すなわち、空の王者、川の王者、陸の王者の3者そろい踏みである。いままでどうしても陸の王者ヒグマの実写が出来なかったが、それが果たせたのが大きい。

 日本中どこを探しても、王者3者が見られる土地は少ない。知床へ行けば、オオワシとヒグマは人里近くにいるが、残念ながらイトウがいない。

 写真好きなら王者はどれひとつとっても興味深い貴重な被写体である。それぞれの写真集が刊行されているのがその証拠である。

 そこで思いついた。王者のうち、オオワシとイトウ、ヒグマとイトウは同じ構図に入れることが可能かもしれない。すなわちイトウを鷲づかみするオオワシ、イトウをくわえるヒグマである。ヒグマが食ったイトウの残骸は撮影したことがあるから、おそらく空と陸の王者はイトウを狙っているのだ。

 3者が接近する時期は4月後半のイトウの産卵時期である。イトウ産卵を観察に川の上流へ行って、空を舞うオオワシ、オジロワシを見ることがある。さらに源流を歩いて、ふと気が付くと近くに冬眠から覚めたヒグマの足跡が側にあったりする。いつもはイトウを見るのが主目的であるが、見方を変えればヒグマもファインダーに捉えることができそうだ。怖いけれどちょっとわくわくする。

 イトウ釣りをしていて、最大の懸案はヒグマである。この秋、稚内市沼川近くの開進で、飼料用トウモロコシの畑を食い荒らしていたヒグマが、箱ワナ猟で捕獲された。なんと体重360㎏というから、小さな牛くらいはある。まるまると肥ったヒグマが、鉄柵の中で暴れる姿を動画で見た。あんなのに原野でばったり遭遇したら、写真を撮るどころか、腰が抜けそうだ。

 猛禽類などの鳥類の写真は難しい。鳥はふつうせわしなく動き回りじっとしていない。空を飛翔する姿は美しく凛凛しいが、いざカメラに収めようとすると、ピントが合わない。とくに猛禽類は警戒心が強く、カメラを構える前にさっと逃げられてしまう。しかし枝に止まってじっとしている鳥はあまり魅力がない。動きが要るのだ。私は撮影者としてはまだまだ修行が足りない。これからは工夫をしたい。

 それに比べればイトウの撮影は一番容易である。産卵観察では、きまった季節にきまった河川のきまった場所へ行くと、真っ赤に染まったオスが否でも目に入る。オスを追いかけると、メスにも行きつく。あとは、上手に撮影ポイントを確保して、粘ればよい。

 いっぽう釣ったイトウを撮影するのは、案外難しい。なにしろ相手は暴れるので、静まるまで待たなければならない。イトウがよほどファイトで消耗しているならおとなしくしているが、そうでなければすぐに逃げてしまうだろう。私は105㎝のイトウをタモに入れて、撮影してくれる釣り友を待っているうちに逃げられた悔しい思い出がある。

 王者の写真は、どれもそう簡単には撮れない。だがその撮影のハードルの高さが魅力なのだ。