第305話 雨中の大物 |
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9月も終盤の日曜日、朝から雨が降っていた。その週はイトウが1匹も釣れていなくて、気分が優れなかった。雨の中でかけていったが、ここという目的地が思い浮かばない。とりあえず雨後の大物がたまりそういな釣り場へ行ってみた。 支流から泥水が吐き出され、本流の澄んだ水に混ざって、グラデーションを作っていた。そこへ何投かバイブレーションルアーを放り込んだ。グニュと柔らかいものにフックが刺さったが、不思議に根掛かりではなく、ルアーが下流へ動いた。なんだ?と思ったところがもう遅い。魚が外れてモワーと川面が膨らんだ。なんだか、口以外のスレ掛かりだったようだ。 その後魚信がなくなったので、移動を決めた。小さな峠を越えて、別の水系に移った。雨で水位が増して、川は軽く濁りを帯びていた。状況は悪くないが、どこにもイトウは居なかった。3時間ほどして、結局朝イチの釣り場に戻ってきた。 釣り場の水位は数センチ上がり、支流の勢いが増していた。泥濁りである。ところが、支流から流されてきたと思われる小魚がたくさんいる。ルアーを通すと、小魚が飛び散るのだ。これはチャンスかもしれない。Rapalaのバイブレーションを投げては引き、投げては引いていると、バシャと音がして、イトウが掛かった。54㎝・1.6㎏の高校生だ。それでも今週初の獲物はうれしく、撮影してから放った。 雨は勢いを増し、常識的にはもう釣りどころではない。そろそろ帰るかとふと川面を見ると、ドキッとした。釣り座から2メートルも離れない本流と支流の境目の砂地の川床に大きなイトウの頭が垣間見えた。メーター級が定位しているのだ。 慌てて大魚の口元あたりにルアーを垂らしてみたが、まったく反応しない。そのうち魚は消えてしまった。しかし居るのが分かっているので、上流から下流へ、下流から上流へ、対岸から手前へと縦横無尽にルアーを通した。すると、ルアーがズンと重々しく急停止した。すかさず合わせをくれた。確かにイトウは乗った。竿先は軽く動くが派手な動きはない。魚は重く、動きが鈍いながらも、対岸側へ逃れようとした。フックは顎ではなく、口唇にかろうじて刺さった状態で、無理にやり取りすると外れそうだ。暴れさせないで寄せてくるように、時間をかけ、慎重に対処する。水面に浮いたイトウは、頭から腹にかけて非常に大きいが、下半身は寸足らずといった体型である。肥満体なのだ。 いよいよ苦手のタモ入れとなった。柄をいっぱいに伸ばしたタモを水面直下に待機させ、スーッとイトウを引いてきて、一瞬をとらえて、頭から腹までを網に収め、タモ柄をぐいと突き出すようにして、全体を取り込んだ。うまく入った。 イトウは体重8.9㎏。体長はあとで測ることにした。本流は深くそこで撮影などの作業は難しいので、網を持って支流に移動した。こちらは膝深くらいなので、動きやすい。下顎にグリップを咬ませ、イトウを泳がすと、動きは落ち着いた。体長は92㎝だ。撮影はオリンパスの一眼レフを使ったが、抱っこ写真は濡れてもいいようにTG1 を用いた。本格的な雨の中で、良い写真を残すのは無理だが、この大魚は今季最大魚なので、しつこく撮影して、イトウには負担をかけてしまった。最後にイトウを放つと、ゆっくり支流を下って、本流の濁りのなかに消えた。 ふと気が付くと、雨は土砂降りに近かった。急に寒気がした。 |