304話 雨後の大物 

 

 8月下旬、宗谷にほど良い雨が降った。各河川はいちど増水して泥川になり、徐々に濁度が減衰したところで週末となった。

私は泥川の釣りが得意ではないが、「こういった非常時こそ大物が出るチャンスなのだ」と若い釣り師たちから聞いている。ヒトの眼には、「こんな泥水では釣れない」と見えても、大事なことは、魚が疑似餌をどう見ているかということだ。泥水の中ではイトウも本物の餌魚か疑似餌か判別がつかないに違いない。目の前に現れた疑似餌におもわずかぶりつくはずだ。

 その日、とある小川が本流に注ぐポイントを探ってみると、落ち口に中型イトウがいて、一発でヒットした。喜んでタモ入れし、計測と体重測定したまではよかったが、写真撮影でモタついているうちに逃げられてしまった。自分では写真がないと、釣果とは認定できないので、バラシ扱いになった。本当に悔しい。

 その後、2か所を巡ったあと、また本流に戻ってきた。朝一度やっているので、それほど期待していたわけではなかった。水位は5センチほど下がり、濁度も幾分下がったようだ。流倒木が入り組んだところなので、平水位ではとても釣りにはならない。しかし増水時なら気をつければそれほど根掛かりはない。

軽く対岸に向けてRapalaのバイブを投じた。流心をまたいで手前に引いてくる。なにも起きない。つぎに下流に投げてジワジワと低速でトレースした。なにも起きない。3投目にさらに下流へ投げて、幾分岸よりに引いてきた。川は濁っているので、ルアーの動きはまったく見えない。釣り座から5メートルほどのホットエリアに引いてきた刹那、ゴーンという衝撃とともに、水面がモアーと膨れあがり、次の瞬間ゴンゴンゴンと首振りのサインが来た。間違いないイトウのヒットだ。しかもかなり大きい。「ウワー、来た!」と叫ぶ。ラインは25ポンド超、ドラグはしっかり締めてあり、走られる心配はない。しばらくは、ファイトを持ちこたえて、イトウの浮上を待つ。流心の流れに乗られないように手元でコントロールする。徐々にイトウの抵抗が落ち着いてきた。釣り座から一段下がった足台に降りて、タモを確認した。タモは75×65の縦長なので、長径方向に流し込むように調整する。イトウが浮上した。かなりでかい。うまくタモ入れできるかどうか緊張する。1度目はイトウがUターンしたので失敗。ついで2度目はすこしイトウの進入角度を修正し、うまく長径に合わせて引いてきて、スポンとタモに収めることができた。

イトウの激動が収まったところで、体重を測ると、6.4㎏だ。しかしタモのなかで体長を測るのは難しく、グリップを下あごにかませ、魚を落ち着かせてから計ると、90㎝ちょうどであった。やせ型だが、尾びれは大きい。秋の荒食いをすれば、立派な体型になるだろう。

こういう釣りに詳しい若い釣り師に聞いてみると、水位がある値になると、必ずといっていいほど雨後にメーター級の大物が出現するという。私もそれを期待して、やっているが、ヒットしても大物ではなかった。それはなぜかと考えてみると、どうも疑似餌の大きさであろう。私のバイブは8センチほどしかない。モンスターがかぶりつくには小さすぎるのかもしれない。そんなわけで、小さな釣り場には違和感があるような大きな疑似餌を使ってみようとその機会を待っているところだ。