297話 シーズン前 

 

 2月というと厳冬期である。道北では冬のピークで、風雪も強く、じっと耐えるしかない日々が続いたりする。その一方で、短い昼間が少しずつ長くなり、日差しも強くなってくる。

しかしここ2年程、宗谷では積雪量がすくない。街の人びとは「しのぎやすい冬」を歓迎しているが、釣り師にとっては厳しい現実が待ち受けている。イトウの棲む川の源流部に積雪が少ないと、雪解け増水が十分ではなく、イトウの産卵に支障が出る恐れがある。さらに釣りシーズンたけなわの6月ごろの川の減水を来たしたりする。

実際2019年は上記のとおりになり、私は十分にイトウ釣りを楽しむことができなかった。ことし2020年も前年とおなじ経過で推移していて、気が気ではない。といっても釣り師がなにかできるわけではない。雨量が十分賄われるように、春以降に期待するしかなさそうだ。

冬場は、宗谷からJRでよく札幌にでかける。アウトドア店や釣具店に足を運ぶことが多い。ロッド、リール、ルアー、ラインといった直接の釣り具は、シーズン中に地元の釣具店で購入するが、ウエア、シューズ、帽子、ベストといった衣装類は都会でシーズン前に入手することが多い。選択肢が多いからだ。パタゴニアのアウトレットで格安品などを見つけると大喜びで買ってしまう。テムズでは店長に頼んで「お取り寄せ」してもらう。以前は服装などどうでも良くて、コーディネートなど無視して着用していたが、写真家と一緒に撮影釣行しはじめると、「その服どうにかなりません?」と言われて、ある程度は考えるようになった。釣りに格好から入る人もいるようだが、それもありだと思う。必要十分で、スキのない身支度をしている釣り人は、実際に腕もよいことが多い。

源流志向の釣り人は、GPS付のスマートウォッチやガーミンを持っている。河川がものすごい蛇行を繰り返す流域になると、方向感覚も失うので、こういったアイテムをもっていると、心強いだろう。私は学生時代に登山をやっていたので、地図と磁石さえあれば、川中を歩いても、脱渓ポイントをピタリと当てる自信があったが、最近はそういう釣りをしなくなり、たまにやるとロストポジションを起こしたりする。冬場はヨドバシカメラなどで、GPSアイテムをのぞいたりしているが、結局買わない。

釣行用のカメラは、昔は重いニコンを特注防水袋に収めて、どこでも持参した。しかし重さが気になるいまは、たいていオリンパスTG5ひとつである。いまのコンパクトカメラの性能は著しく改良されていて、これでほぼ満足している。よほど大物の予感がするときだけ、オリンパスEMMarkⅡを持っていく。若い釣友はGoProを持っていて、ときおりびっくりするような動画を見せてくれる。私もけっこう大きい8ミリビデオをかつぎ、CCDカメラを帽子につけて、動画を撮っていた時期がある。こういった撮影アイテムを探してまわるのも、オフシーズンの楽しみなのであるが、結局買わないでいる。

2月末ともなると、首都圏では梅が咲き、春一番が吹いたりして、釣友のLINEがにぎやかになる。向こうはやる気満々で、はやばやと格安航空券を買ったり、黄金週間の予定を知らせてきたりする。

冬が峠を越えたくらいでは、まだこちらはスタンバイできないが、なんとなく明るい気分にはなる。新型コロナウイルス感染の見通しは難しいが、春になって気温があがり、イトウのシーズンになる頃には、下火になるだろうと希望的観測をしている。