293話 釣りの常識外れ 

 

 イトウ釣りのピークシーズンは雪解け増水の落ち着いた56月と、晩秋の1011月と言われてきた。たしかにその時期になるとにわかイトウ釣り師が増える。しかしイトウが一番釣れるのは真夏という定評が一部のイトウフリークの間にはある。私は以前真夏の釣りは苦手だったが、最近はむしろ真夏に釣果が上がる傾向にある。

 真夏に釣果が上がるには、2つの状況がある。ひとつは気温が上昇して川の水温が上がることだ。もうひとつはまとまった雨が降ることだ。

 川の水温が上がるとなぜイトウが釣れるのか。常識的には釣れなくなるのではないか。確かに中小河川で水温が上がると、イトウをはじめ他の川魚も釣れなくなる。長年イトウの釣果を水温からみてきた私は、水温15℃をピークに高温になればなるほど釣果が落ちる結果を得ている。しかし、水温が上がるとイトウが消滅するわけではなく、どこかへ移動しているはずだ。

私は長らくその何処かを探してきた。分かったことは、大河にはほんの少しだけ他より水温が低いところがあることだ。その温度差は気温が上がれば上がるほど顕著になる。例えばあるポイントでは、水温25℃とイトウ釣りにはきわめて不適な高温になるが、その近くに17℃という快適な流れがあるとしたら、イトウはどうしてもそこに集まる。

また中小河川でもあまり気温に左右されないで、恒常的に同じ水温を維持する川もあるとしたら、夏場のイトウは好むはずだ。そこに河川のサイズには考えられないような巨大魚がいたりする。

 一方降雨のあとに魚が上流を目指して移動するのは、釣り人の常識である。特に夏場に台風などで大雨が降ると、その後河川は釣り人のパラダイスとなる。しかし大雨が降って、川が泥流化しているときに、そこで竿をふっても釣れるものではない。河川に転落すればそれこそ一命を落とす。そこは常識的に釣りになる水位を見極めることが必要である。

 ある年のこと、宗谷では大雨が降り、礼文島では土砂崩れで死者が出た。その1週間後やっと平静化した川に出かけたところ、信じられないほどのイトウがあるポイントに集結していた。私の釣り場には、ウグイの稚魚があふれるほど湧いて、それを食うためにイトウも濃密に集結していた。なにしろどこへキャストしてもイトウが食いつく状況だったのだ。

 ことし釣友から教えられた大雨の爆釣もすごい。映像からみて、私なら絶対に釣りをしない激流で、つぎつぎに良型イトウを釣り上げるには驚いた。しかも溝のような細い流れからである。おそらくそんな芸当が可能な時間は、ある水位になった1時間ほどのことだろう。つねにそういった状況で釣りをしているエキスパートしかなしえない技であろう。

 イトウ釣りの奥義というか、長年やってきた私も知らないことがまだたくさんある。だから釣りが面白くて止めることができない。

 おそらくいままで私が一度も釣りをしたことがない状況こそ、爆釣のキーワードになるに違いない。