292話 イトウ釣りの苦戦 

 

 2019年はイトウ釣りに苦戦している。原因は、河川の渇水である。この冬の積雪量の減少と春以降の雨量の少なさが原因である。苦戦しているのは私だけではなく、私の腕利きの釣友もこぞって苦戦しているのだから、釣り人側の問題ではない。

 イトウだけではなく、川魚にとって川の水量は宇宙そのものである。川の減水は宇宙の縮小を意味するから、魚はもっと大きな宇宙を求めて、下流へ海へと下る。

 5月からイトウ釣りを始めて、56月と貧釣果に悩まされた私は、7月に入った時もう「川の水位が大雨で帳尻合わせがくる」なんてことを期待しなくなった。ことしは宗谷の河川の水位が低め安定をきたしたのだ。それでは、イトウ釣り師はいったいどこで釣りをすればよいのだろうか。

 川魚の好む一定の水量とほどよい流速はどこで得られるのか。渇水になった川に立ち込んで、あちこちと歩き回った。そこで気が付いたのは、いままで川に立ち込んで到達することができなかった深部に川通しで到達できることだ。そういうところには、かろうじてイトウが居つくこと、また減水したかつての大場所が、チョロチョロ流れの瀬になったりした場所に案外良型が潜んでいることだった。

「雨後増水して膨れ上がったポイント」はもう得られない代わりに、川中を歩いて到達できる希少なポイントが出現したこともある。もちろん増水期のように、一か所に何匹も良型が待機するような幸運は期待できないが、努力すればある程度の釣果が見込めることが分かった。

 7月初旬、私は最近では足を運ばなくなっていた原始の川に突入した。昔よりずいぶん減水して、河原や予想外の瀬ができたりしていた。それでも水温は15℃台と悪くない。上流に向かって進むと、小さな川が合流するポイントに到達した。

「あれ、けっこういい雰囲気ではないか」と感じて、バイブレーションルアーを遠投し、ゆっくりゆったり曳いた。何事もなくルアーが戻ってきて、あと数メートルというところで、いきなりひったくるように魚がヒットした。ドスンという手応え、派手な水柱は間違いなく良型だ。緩めにしてあったドラグがジューウと回転して、ラインが放出されていく。慌てて少し締め、魚の走りを停めた。あとは至福の時間が続いた。ことし70歳になった私は、片手で魚の圧力に耐えきれず、両手で対応しなければならない。幸いタモはメーター級でも取り込める大型を背負っていた。そのためランディングには余裕があり、じりじりと魚との距離を詰め、やっと掬い込んだ。あたりは胸までの深さなので、タモを抱えて、下流まで歩き瀬にできた河原に持ち込んだ。イトウは尾びれの立派な83㎝で、体重はバネバカリで6.2㎏と読んだ。これまでで今年一番の良型だった。

 想定外の釣果に有頂天となり、写真撮影にじっくり時間をかけた。80㎝台ではあったが、抱っこ写真も撮影した。イトウは大きいが痩せていて、尾びれの大きさが不釣り合いであった。おそらく餌魚も足りないのであろう。再会を期待して、ゆっくり川に放った。