280話 イトウ釣りと年齢 


 私は現在68歳である。最近イトウ釣りに必要な持久力が衰えてきたことを自覚している。5年前なら1日に10時間くらいは平気で竿をふり続けていたが、いまは5時間くらいでかなり疲労する。午前中だけで止めて帰ることも多い。他の釣り師と遭遇することもあるが、イトウ狙いの人はまず私よりそうとう若く同世代はほとんどいない。

イトウ釣りには定点釣りと移動釣りがあるが、私はおもに移動釣りをしているので、原野や川のなかを移動しながら竿をふる。当然体力が要る。いちど川に踏み入れると、途中で中断したくないので、釣れても釣れなくても長いルートを辿ることになる。一方定点釣りは、大川の一個所で竿をふり、動かない分体力は温存できるが、長時間じっと耐える強いメンタルが要求される。

 最近では遠くから釣りにやってくるT氏やO氏といった私より20歳以上も若いイトウ釣り仲間の釣果には常に驚かされている。夜明けから日没までほとんど休むことなく釣りをつづける彼らの心身のスタミナが切れることがない。早朝と夕暮れは大場所での大物狙い、その間は中小河川を歩き続けて着実に数を釣るという戦略は、イトウ釣りの王道である。私もそうやってきたが、朝からはじめて昼ころになるとガス欠状態となり動けなくなる。間食を口にしてそのまま眠ってしまうこともある。残念ながら体力が落ちているというしかない。

 イトウ釣りをはじめて丸29年になる。スタートが40歳というのは遅咲きであるが、それから熱中して急速にのめり込んだ。地元の利点もあるが、開拓精神も旺盛で、釣果も着実にあがった。写真家・阿部幹雄とのコラボレーションで、四季を通じて川を歩き回り、撮影釣行をこなした。52歳から10年間ほどは病院の責任者で釣りの時間が制約されたが、その後はまた時間の余裕ができた。

 イトウ釣りに体力が要ることは分かっているので、私はいまもトレーニングを続けている。毎朝未明に510㎞のランニングだ。季節を問わず真冬でもイトウのハイシーズンでも走っている。大体1カ月180㎞くらいになる。おかげで体重と身長は高校卒業時とおなじで、50年前の服も着ることができる。しかしランのスピードはどんどん下降して、昔は1㎞を5分で走ったが、今は7分かかる。それは加齢による筋力低下、心肺機能の低下で仕方がないことだと思う。私と同世代は運動の習慣がなければすでに走ることすらできないはずだ。いまはイトウ釣りのオフシーズンで、時間を持て余してしまう。それでもさぼっていると身体は急速に衰えるので、冬も体を作っておくことにしている。

 私が馬齢を重ねるあいだに格段の進歩をしたのは通信手段である。スマホは一昨年から私も使っている。気の置けない釣り師には、釣果を写真付きで送り、また受信もして情報交換をする。これがモチベーションをあげる。どこで釣るかも知らせるので、釣り場を競合することがほとんどない。

 ことしの4月で69歳になるが、いままでと同じペースでイトウ釣りを続けようと思っている。目標は相も変わらず年間100匹と100㎝を釣ることである。いつまでやれるか分からないが、イトウ釣りが大いなる生きがいであることは間違いない。