第277話 バラシ |
イトウ釣りにバラシは付きもので、相手が大きければ大きいほどバラシも増える。 2017年の今年は、いまのところメーター前後のイトウを3匹バラシた。それぞれ時期も河川も異なるが、いずれも悔しかった。 あとで技術的にああすればよかったとか、道具のメンテナンスをもっとしっかりやっておけばよかったとか反省するのだが、後の祭りである。 まずは5月31日ホームリバーの朝釣りである。前日に93㎝が出たので、意気揚々として河畔に立った。気温12℃、水温14.8℃。バイブレーションにカツンと鋭角的なバイトがあったが、魚は乗らなかった。そこですぐにルアーをMM13 に変更して、その魚がもう一回食ってくれることを祈った。するとなんと次の一投目に素晴らしく重量感のある魚が乗ったのである。これは逃すわけにいかないと、5発ほど追い合わせを入れた。さらにリールを急速にグリグリと巻き、足元まで引き寄せた。その時かなり大きな頭部とその下にぶら下がるような肥った胴体をはっきり見た。「よし!」と気合まで入れたが、その次の瞬間にイトウは猛烈なスピードで潜り、フッと圧力が失せた。フッキングが甘かったのだろう。あとでルアーのフックを確認したところかなり鈍化していた。後の祭りだ。 次は6月14日小河川の立ち込み釣りであった。水温13.1℃。慎重に釣り上がったがなかなか魚信がなかった。最大のポイントも不発に終わり、このルートに半ば諦めていた。それでも終点目指して、膝深の川を歩き続けた。つぎの深場までまだ200mほどあるので、油断していたのだろう。まさかイトウがヒットするとは思わなかった。おそらく移動中のイトウが膝深の浅瀬で出合い頭に食ったのである。根掛かりに、チェと吐き捨てようとしたら、突然イトウの背中が現れたのだ。短竿の先にアンバランスな大魚ぶら下がっている感じだった。とっさに「困ったな。背負っているタモには入らない大きさか」と思った。それでも初期の激しいファイトをしのぎ、イトウが浮上したのを見届けた。80㎝後半くらいの良型だ。さてどこまで引っ張って浅場にずり上げればよいかと周りをキョロキョロしているうちに、ラインのテンションが緩んだのか、頭を三度振られて、フックが外れた。 最後は9月3日だった。渓流河川で水温は13.1℃。なかなかイトウが出なくて、ほとんど期待を持てなかった。脱渓前に背の立たない深みに遠投して終わろうとした。水位はどんどん深くなり、ついに川床につま先立っても胸の深さになった。ルアーは距離のでるバイブレーションだ。ビューンと飛ばして着水したとたんに、明らかな生物反応があった。ルアーが柔らかいものに掛かり、それが動いたのだ。直後に尾びれが水面を叩く物凄い水柱が立った。間違いない大魚がヒットしたのだ。思わず「来たぁー」と叫んだ。イトウは猛スピードで接近し、水中木に潜りこもうとした。そうはさせじと釣り師も急ぎ、ウエーダーの浸水も気にせず走った。対応は上手くいきイトウを開けた水域に引きずりだした。10ft.竿は半月に曲がり、ぐんぐんしなる。しかしドラグは作動しない。ギンギンに強く締めていたからだ。やがて魚が浮上して全身が露わになった。黒く光ってでかい。もしかするとメーターである。ワクワクしてきた。しかしその時だ、イトウは気を取りなおしたように一気に潜った。強烈な引きだ。一段二段三段の引きに耐えたが、次の瞬間バツンと音がしてラインが切れた。なんということだ。ラインは25ポンドのナイロン糸だというのに。流木倒木が点在する河川の立ち込み釣りでは、ドラグが効きすぎると走られ、潜られ、障害物にからまれてアウトになることが多い。そのため私はドラグをきつく締めている。その習慣が裏目に出た。 バラシは常に悔しい。後悔する。しかし大魚を掛けたところまでは、きわめて順調だったのだ。それに歓喜したとこで、落胆の底まで叩き落される。そこで対策を練って二度と同じバラシはするまいと誓うのだが、またやってしまう。イトウ釣りは難しい。 |