270話 晩秋のホームリバー  


晩秋になるとあまり遠出をしたくない。天気の急変でいつ吹雪や雪道になるか分からない。私は四輪駆動車に乗っているが、運転が得意な方ではない。そんなわけで釣り場はほとんどが手近なホームリバーとなる。

11月になると気温はすでに1℃か2℃で、風が吹くと慣れない身体にはけっこう寒い。水温も3℃前後で、川に立ちこむとウエーダーを通して冷水が体温を奪い足先がじんじん冷える。むかしは氷塊がプカプカ浮かぶ川に胸まで浸かって竿を振っていたのに、いまではできる限り濡れない陸から釣りたい。

113日は穏やかな小春日和となった。水温3.2℃。9月から丹念に作った釣り座でキャストを続けていると、突然ドスンと重々しい魚信があった。竿先から半径5メートル内のやり取りのち無事タモ網で取り込んだ。77㎝・5.0㎏のまずまずのサイズのイトウでひさしぶりの釣果に喜んだ。

115日は非常に魚の活性が高い日だった。水温は2.0℃と厳しい冷え込みであったが、風がなく水面は鏡で、いきおい期待は高まった。アサイチで突然ヒットしたのはアメマス51㎝でローソクのように痩せていたが、ひれが大きく結構なパワーを見せてくれた。その直後だった。下流に投じたMM13をピックアップに取り掛かった瞬間、ひったくるように奪っていったやつは、きつく締めたドラグをジージー鳴らして、沖合へ走った。こういうヒットは、たいていスレ掛かりで、ファイトは非常に元気がよい。けっこう手こずらせたやつは83㎝・5.6㎏の良型であった。

その後ウグイ25㎝が来て、釣り場を変えるととぼけた顔のボラ51㎝がヒットした。さらに下流へ移動するとボロボロのホッチャレになったシロサケが2回追ってきた。この多魚種の活性の高さはいったいなんだろう。これは面白い日になるかもしれないと期待が高まった。

昼前のことだ。橋けたを狙ってキャストをつづけていたら、下流のヨシの生え際で大きなライズが広がった。すかさずそこへルアーを投げ込むと、なにかが掛かった。根掛かりではなく、竿先がかすかに動く。微妙に生物の反応が伝わる。しかしまるで暴れない。膠着状態を打開しようと、リールを巻きながら距離を縮めようと走った。そこで大合わせをくれたら、フッと軽くなった。いったい相手は何者だったのだろう。

午後もう一度朝のイトウヒットポイントに舞い戻った。水温3.5℃、相変わらず波がない。穏やかな気持ちで、ゆったりとルアーを投げ、リールを巻いていると、またもやズズーンとブレーキがかかった。これは予想していたので、小気味よく合わせが決まり、ファイトを楽しみながら引き寄せると、幾分痩せたイトウで、80㎝・5㎏であった。この日は釣り仲間との飲み会が予定されていたのでよい土産話ができた。

晩秋の天気はまったく思うに任せない。5日を最後に穏やかな日和はなくなり、雪と風がなんども釣りの期待を裏切ってくれた。稚内地方気象台は1031日にさかのぼって根雪と認定して、季節は冬に突入した。