阿部幹雄とイトウ談義をしているうちに、初心者の釣り人のために、釣った魚の扱い方を書いたほうがいいと勧められた。そこで、私がやっている方法を書いてみよう。
まずは釣りかたである。ヒットしたイトウを疲弊させないためには、できるだけ早く釣りあげることである。だから細い竿、細いラインといったライトタックルはよくない。ちなみに私は、小中河川では8.3ftの竿を、大川では11ftの竿を使っている。ラインはナイロンの16ポンドテストか20ポンドテストである。号数でいえば4号か5号である。ヒットしたら、引きを楽しむのではなく、強引に寄せる。早く決着をつけるようにしなければならない。
ランディングは、矢口高雄さんが「膝まくら」と命名してくれた膝や股を使った方法で、水中でも陸上でもビシッと動けなくする。魚にばたばた暴れさせると、釣魚はいっそう消耗し、皮膚を傷つけてしまう。イトウはバックしないから、魚体を股に挟んで、口に手をつっこめばもうフォール勝ちである。
タモを使って魚を取り込むのは好まない。ルアーの針がタモのネットにからんで、ほどくのに苦労するからである。それより巨大魚はタモですくえない。タモですくえる程度の魚は巨大魚とはいえない。
フックはすぐに外す。ニッパで簡単に外せる位置に刺さっている場合なら、なんの問題もない。問題は、ルアーを飲み込まれた場合である。鰓(えら)にがっちり刺さっている場合は、よほど慎重に外さないと、鰓を引きちぎって出血させることになり、魚はたちまち蒼白状態となり、死亡させてしまう。私は、魚を絶対に動けないように固定して、鰓ぶたからのアプローチで、針をはずすワザをもっているが、それですら困難だと判断すれば、ラインを切って、ルアーをくわえさせたまま放流する。ルアーをくわえた魚が生存できるかどうか断言はできないが、無理に外して出血させ、その場で死亡させるよりはましである。魚でもヒトでも異物が刺さると、生体の反応で、炎症が起こり、うまくいくとその部分が脱落してしまう。すなわち針がとれてしまうというわけである。私の経験では、私のスプーンを飲み込んだまま、もう一度私のルアーにくらいついた悪食のイトウもいたから、ルアーが刺さっていてもえさをあさる元気者もいることは事実である。
魚の体長を測る際は魚体を横倒し、右膝で背びれあたりの体側を軽く抑える。そしてメジャーでさっと全長を測る。そこですぐ水中に魚をもどす。数秒間水中で呼吸をさせてからつぎの作業に移る。
写真はひたひたの水際で二三枚を撮る。70pクラスまでのありふれた魚なら、そこで終わりである。80pクラスであれば、もうすこししつこく多方向から写真撮影をする。長くても10秒以内には、いちど水中にもどして、十分に呼吸させる。
90p以上の何コマも撮影したくなるような立派な魚であれば、水際に簡易いけすを作って、そこで回復させる手もある。川を歩く釣りではできないが、大川でずっと立ちこんでキャストを繰り返すのであれば、最初からいけすを作っておけばいい。こういった準備が大物を呼ぶのである。
私は、ずっと独りで釣りをしてきたから、独りで「抱っこ写真」(ニコパチ写真ともいう)をセルフタイマーで撮るワザをもっている。カメラをとっさに陸上に固定して、マニュアルとセルフタイマーに設定し、距離を決め、人物と魚が暗くなりそうならフラッシュも焚くように設定して、シャッターを押し、タイミングをみはからって魚を抱っこし、ニコッと笑ってポーズを撮る。これは、カメラの扱いにそうとう習熟し、なおかつ魚の扱いに習熟していないとできない。やりたい釣り人は、ひたすら釣って練習するしかない。
リリースするまで、水から魚を出したり入れたりと忙しいが、これをやらないと魚は酸欠で死亡する。魚が横倒しになったまま動かないことは、弱っている証拠だから、そうなると回復させなければならない。鰓ぶたの下に手をそえ、もう一方の手で尾びれのつけねをもって、前後にゆっくりと揺する。そうすることによって、鰓に新鮮な水すなわち酸素を供給することになり、酸欠を防ぐことができる。魚は回復すると、腹を下にした正常な体位で定位することができる。
リリースそのものは、難しいことではない。たいていの魚は放つとさっさと泳ぎさる。動きのわるい魚でも水中に立てておくと、そのうちにのろのろと動き始め、深みへと去っていく。わざわざ絵になるようなしぐさで、魚を放つ必要もない。リリースしても泳ぎださず、腹を上に向けるようでは、かならず死んでしまう。そういう場合はもう一回、蘇生しなおさなければならない。
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