260話  2015年のイトウ釣り


 冬のオフ私は終わったばかりの2015年シーズンを振り返ってみる。まず諸データを集計して記録を見る。さらに記憶に残るシーンを思い出す。

 ことしはシーズン直前にふくらはぎの肉離れを起こし、一時は「イトウ釣りができないのではないか」と危ぶんだ。けがからの復帰ではじまった釣りシーズンだが、当初は長い距離を歩けないので、動かない釣りをした。毎朝おなじ川岸に立って、イトウの回遊を待ち受けた。するとかつてないほど90㎝級がヒットしたり、ばらしたりしてイトウの動きをしっかり把握した。定点釣りのおかげで、釣魚の平均体長が上がり、動かない釣りの利点と面白さを思い知らされた。

 まもなく傷が癒えて、例年通り中小河川を釣り歩く私独自のスタイルも復活した。しかし、冬期間の小雪のせいで、河川の減水、渇水も生じたため、例年通りの釣果を得ることが困難な夏場の時期もあった。とりわけ9月の不振は目を覆うばかりで、9月が8匹という異例の事態になった。

 シーズン終盤も暖冬のわりにはイトウが出なくて苦労した。水温が12℃台になるといくら晴れて結氷がなくても、なかなか活性があがらないことを知った。

 こうしてイトウ釣りに没頭し、2015年には101匹のイトウを釣ることができた。平均体長は56.3㎝であった。体長は90㎝級4匹、80㎝級5匹などで、グラフを描くと50㎝級27匹をピークにきれいに正規分布した。20㎝級や10㎝級の赤ちゃんが極端に減ったが、丹念に小河川をたどってそういうサイズを釣る機会に恵まれなかったからだ。小さいイトウが居ることは、再生産ができている証拠なので、大いに喜ばなければならない。私としては、本当は赤ちゃんイトウをもっと釣りたいのだ。

 イトウの河川はたった4河川での釣果となった。ホームリバーで54匹は少な目だが、あまりしつこくやらなかったのでこんなものだ。雨後の劇的な量産釣りはなかった。むかしは開拓者精神旺盛で、わざわざ遠くへ遠征して、深山幽谷の未知の区間に挑んだものだが、さすがに今はそんな気力と体力がない。そんなに無理しなくてもイトウは身近にいることを知っている。

 イトウが釣れる時間は、下流部では明らかに潮汐の影響を受け、干潮に向かう下げ潮の時間がよいが、中流以上では潮汐はあまり関係がない。最近は朝ではなく午後に川へ通うこともあって、午後によく釣っている。

 水温は10℃から18℃がよくて、この間なら安心してヒットを予測できる。しかし5℃以下や20℃以上はさすがに厳しい。

 天気は圧倒的に曇がよく、ついで快晴であった。しかし朝霧の中でヒットした大物は幻想的な出方で長く記憶に残りそうだ。

 ヒットルアーは、DDPanish39匹、RANGE VIB33匹で双璧をなす。ことしは下流でMM13を使って11匹を釣った。中流のスレていない素朴なイトウは、どんなルアーであろうと素直に食いつく。

 1994年にイトウの統計を取り始めてから、2015年までの22年間で1930匹を釣った。あと70匹釣ると2000匹に達する。プロ野球の名球会ではないが、イトウ2000匹の統計は見たことがないので、しっかりと分析したいと思う。

釣り師では数釣りを軽視するむきも多いが、安定した数を釣って記録しつづけるからこそ、釣りが意味のある生態観察になる。資源の増減の目安にもなる。大物ばかり釣ってもそういう魚がいたというだけのことで、いっときの自慢にしかならない。イトウにも釣り師にも役に立つ科学とは無縁だ。