第210話 6月釣果32匹 |
私のイトウ釣りの世界で、6月は断トツの稼ぎ月である。長い昼の時間、安定した天気、最適の水温、生きものの一斉の活性化をみてもイトウが釣れて当然である。それにしても2012年6月の32匹のイトウは自分でも信じられない釣果であった。 2004年6月に月間で31匹のイトウを釣ったとき、この数字を更新することは不可能とおもった。6月は30日間しかないからだ。あれから8年たち、私も8歳年老いた。 2012年の場合、土曜日が5回あり、日曜日が4回あった。このどれにも出張など仕事がかからず、しかも大雨など気象の激変がないかぎり、かなりの数を釣れる確信はもっていた。欠席できる会合や宴会はすべてキャンセルして、万難を排した。 第1週目、おだやかな天気に恵まれ、土曜日に36、83・6.7kg、74、28と順調な釣果を得た。日曜日も77・5.8kg、48、38と出た。これで7匹である。 第2週目、平日の朝釣りで43、72・4.0kg、84・5.1kgの3匹を稼いだ。土曜日は56、28、78・4.9kg、42、日曜日は苦しみながら33を得た。これで8匹を積み上げた。 第3週目、平日朝に31と38を釣っておいた。土曜日は22と46、日曜日は37と47であった。小学生中学生イトウばかりであったが、これで6匹であった。 第4週目は平日朝に86・6.0kgの良型が出て気をよくした。この週はおそらくイトウ釣りには最高の週だったようで、イトウの会の会員もいい釣りをした。土曜日は80・5.2kg、31、32、日曜日は36と41.これで6匹である。 第5週は、土曜日だけで、29、52、58、84・6.4kg、50が短時間に来た。これで5匹を上乗せした。とくに最後の1匹の前に、月間31匹に到達したことは分かっていた。川を遡行しながら釣っていたが、老朽化したリールのベールが折れてしまった。そこで一度川を出て、急いで藪をこぎ、大汗をかいて車に帰った。リールを換え、また川に戻って釣りをつづけた。かなりへとへとであったが、しぶとく粘っているうちに、50がヒットしてくれた。その日は札幌へ出張の途上で、あまり時間がなかったので、本当に奇跡的に月間32匹を達成した。 数字をみてもらったら分かるように、6月にメーターも90オーバーも釣っていない。だいたいそういった大物がいない中小河川である。大物を釣ることは考えていない。 私は他の釣り師の姿が見えるようなところではほとんど竿をふっていない。代わりに、エゾシカやたまにはヒグマが私を見ているような釣り場である。深山、幽谷、樹海、湿原の川がフィールドである。 私は流倒木や蛇行で複雑に入り組んだ原始の川が好きで、そこを歩いて釣りをしている。有力ポイントを眼にすると歓喜する。実際そういったところから劇的にイトウが飛び出す。 一方、下流のポイントのない大川で、イトウの回遊を待つ釣りは苦手である。そういった釣り場に立っても、期待で胸がふくらむことがない。 小学生中学生イトウを釣っておもしろいのかと聞かれると、おもしろいと答える。小さくても大きくてもイトウ釣りの難しさは変わりがない。獲物がたまたま小さかっただけで、それを釣るための労力は小さくない。しかも、小さいイトウも将来巨大魚に成長する可能性もあるのだ。 結果はともかく、自分が選んだ釣りのルートをたどってきたことには充実感を覚える。数を釣ることは、すなわちそれだけ肉体に負荷を加えていることなのだ。 数を釣ることによって、イトウの生息状況が分かり、世代交代の進行も見えてくる。大物しかいない川は世代交代からみると、末期的な川なのである。大物だけを釣ってイトウ資源が健在とはいえない。 |