208話  黄金の週末日


6月は一年で一番イトウが釣れる月である。これは長年の記録で明快に示されている。ほぼ確実に月間20匹のイトウが釣れる。特別に人跡未踏の地域を歩くわけではないのに、イトウは要所要所にいるのだ。ことし6月初旬はずっと雨が降らず、川はゆっくりと減水していった。水温は10℃から17℃くらいで推移し、まさにイトウの活性が得られる季節となった。

 6月最初の土曜日は爽やかな初夏の日差しが降り注いだ。私はすでに十分に日焼けしていたが、太陽光はさらにじっくりと皮膚を褐色に染め上げていった。私はやけどにはならずに上手に日焼けする体質で、しばらく褐色の肌が長持ちする。

 土曜日、最初の川は想定外の不発に終わった。そこで今シーズン初めての市街地に近い川に立ちこんだ。水は川床が丸見えのクリアだが、さすがに生活ゴミが多くて辟易する。川にゴミを捨てる輩がいるようだ。それでも遡行していくと、36pの中学生イトウが釣れた。もうけたような感じ。

 つぎに立ち込んだ川は豊穣だった。蛇行は少なく、流れも鏡のように平坦なのに、なぜかイトウは居ついていた。腹までの水深に立って、岸際をトレースしたプラグに、ドシンと食いついて、激しく頭を振った。タモ網のなかでもそうとう暴れた。体長83p・体重6.7kgもあるマッチョイトウだった。同じ川に小さな合流点がある。そこへ向けて投げ込んだルアーに、またゴンと来た。今度は74pの細身のイトウだった。

 一日3匹はけっこううれしい。野球でいえば猛打賞であり、サッカーならハットトリックである。長いシーズンでも一日3匹はそうはない。だから3匹出ると、その後はイトウの数にはこだわらない。大河まで車を飛ばして、こころゆくまで長いロッドを振り回した。もちろんなんの魚信もなかった。森のなかにワラビが生えていた。心地よい睡魔に誘われると、新緑の草地に転がって、うつらうつら惰眠をむさぼった。

 最後に「おれの釣り場」と名づけた川で竿をふった。釣れても釣れなくてもいいと思っていたら、11pのプラグに28pのイトウが食いついた。これでこの日は釣果4匹となった。

 翌日曜日、アサイチで湿原の核心部に突入した。シカの足跡が入り乱れている。丹念に探るが、ヒグマのものはない。この季節なら、河畔の森の植物の背丈はまだ低いので、ヒグマがいても、かなりの距離から発見できそうだ。突然、目の前に現れるようなことだけは避けたいとおもう。

「絶対ポイント」に立ちこんで、3投目のピックアップ寸前にイトウが竿に乗った。72p・4.0kgの良型で、この1匹で湿原にきた甲斐があった。

 前日も入った川に、また立ち込んだところ、新たな個体がいたようで、遠投に48pがヒットした。この川は小魚が群れているので、イトウはどれも肥っている。やせた48pは可哀そうになるが、ぷりぷり肥っているのはよい引きをしてくれる。

 この日は南西の風が吹いていた。私は向かい風が嫌いなので、南西風を背にする岸辺を渡りあるいた。ルアーは気持ちよく飛んでくれたが、ヒットはなかった。風の影響がない中小河川の深い渕で、この日3匹目の38pをゲットした。連日の猛打賞で満足した。

最後に稚内に帰る前に、アイヌネギをレジ袋半分ほど採取した。すでに他の植物の下生えになっている双葉を、這いつくばって採っていると、2羽のカラスに激しく威嚇された。そういえば、ここの木にカラスの巣があり、そろそろ卵が孵るころなのだ。