第202話 4月初旬 |
4月初旬の日曜日、快晴に誘われて川の偵察にでかけた。ことしの積雪量は例年をはるかに超え、牧草地も原野もまだ深い雪の下に埋まっていた。しかし幸い、車道だけはやっと乾いて、ひさしぶりの運転は快適であった。 原野のかなたにはたっぷり雪をまとった利尻山が、頂上付近だけ薄雲をかぶり、春の陽を浴びて輝いていた。誰もが写真に収めたいとおもうような秀麗な姿だった。 国道から右折すると、真正面に利尻山が鎮座していた。まっすぐに走る道が川をまたぐ橋のたもとに、見慣れた車が停まっているのを見て、おもわずニヤリとした。向こうもすぐに気づいたようで、車から出てきた。握手を交わし、再会を喜んだ。チライさんである。 「やあ、ひさしぶりだね」 「オホーツク海側も日本海側もまだまだ雪が深くて、下手すると雪解けは1ヶ月くらい遅れるかもしれませんね」 われわれは情報を交換し、「まだ釣りには時間がかかるね」と言い、黄金週間での再会を約束してその場で別れた。 利尻山が一番きれいに見える丘に車を停めて、しばらく写真撮影にふけった。西風がけっこう強く、手持ちではカメラがぶれた。 イトウの棲む川はまだ凍って雪をかぶり、雪原となっていた。例年ならすでに解氷しているころなのに。それでも開いた止水域には、北へ帰るコハクチョウが羽を休めていた。 「おい、サハリンもシベリアもまだ厳しい冬だぞ。宗谷でゆっくりしていけ」と言ってやった。 最近右肩が痛いので、まだ昼前なのだが、豊富温泉に行って、ホテルで入浴した。入浴料が百円値上がりして500円であった。石油の臭いのする湯は身体の芯まで温めるが、痛みに即効性があるわけではない。毎日入浴していたら、効能があるだろうけれど。そのうちに気候が暖かくなったら、自然と治るかもしれないし、竿をふっている内に気にならなくなるかもしれない。まあ時間待ちだ。 温泉から町に入って、松竹でカツカレーを食べた。日本人でカツカレーが嫌いな人はめったにいないだろう。トンカツとカレーの組み合わせは絶妙だ。千円もしないのにこの幸せ感はどうだ。私にはフレンチだのイタリアンだの美食はまるで理解できないが、B級料理はうまいまずいがよく分かる。空腹のときはいつもうまい。 入浴し胃が膨れると、当然のように睡魔がやってきた。近くのパーキングで車を停めて昼寝をした。車の中でダッシュボードに足をあげて寝るのが気持ちいい。瞬間的に寝入ったようで、ふと目覚めると、前後不覚になっていた。 ふたたびハンドルを握り、牧場地帯の雪景色を眺め、山の上の風車がゆっくり回転するのを見ているうちに、稚内が近づいてきた。ちっとも進まないとおもっていた高規格道路の建設がいつの間にか、けっこうはかどっている。 セルフのガソリンスタンドで給油した。燃料の高騰が気になる。投機で原油価格を吊り上げているやつらの首を絞めたくなる。 コンビニで惣菜をいくつか買い、そのまま帰宅した。まだ午後浅い時刻だが、もう十分に外の空気は吸った。あとはプロ野球の試合をテレビで見た。 こんな具合で早春の日曜日が過ぎていった。釣りの季節はまだ遠い。 |