174話  年越し


 むかしは年末年始、とくに正月三賀日にも氷の川に釣りに行っていた。もちろん川はほとんど結氷していたのだが、ごく一部に開水面が残っていて、無理して釣りをすることはできた。しかしそれはあくまで写真撮影のための釣行で、まともに釣りになるとはおもっていなかった。

「まるでどこかの国の工作員だ」なんて笑いながら、写真家の阿部幹雄と、季節に適した防寒ウエアと装備で身を固め、雪原と化した川辺を歩き、適当な場所を選んでほとんど凍結した川に入っていたのだ。

気温は氷点下10℃、水温はほぼ氷点で、ロッドガイドに付着した水しぶきもすぐに凍る。川中には氷の結晶であるフラジルアイスがモアモアと漂い、これが岸辺や流木などあらゆるものにまとわりついて徐々にしっかりとした氷に固まっていく。

そんなオンザロックの中に浸っているような釣りであっても、イトウはヒットした。ところが、フックに氷のよろいができて鈍化しているので、すぐにバレてしまう。そのため1月のイトウの釣果はまだない。

 しかしこんなことをやっていたのは、まだ40歳台であった。還暦をすぎた今はあれほどの元気はない。大晦日の私はどこの家庭でも過ごすように、紅白とゆく年くる年を見て、ほろ酔い加減で寝る。年が明けても、未明のランニング以外は、食っちゃ寝している。

 年の瀬になると、過ぎ去ったシーズンのイトウ釣りのデータをまとめる。2010年は68匹釣った。あと1匹釣ると2009年の数に並ぶし、あと2匹釣ると70匹の大台の乗るところだったが、最後の12匹がどうしても出なかった。近年は11月の下旬から12月中旬にかけて仕事の都合で、週末に釣りに出陣できない。そのため初冬の粘り腰が効かないのだ。イトウの記録をつけはじめた1994年から2010年までの17年間で1387匹を釣った。母数が千を超えると、統計にも意味があると考えている。

正月の楽しみは、釣り具店の初売りだ。大体2日か3日から福袋や安売りでオープンする。私は福袋を買わない。希望するのは小物類で、ねらい目は古いルアー類のワゴンセールである。好きなDD Panishなんかがあるととてもありがたい。去年はくじを引いたところ1万円券が当たって、とてもうれしかった。これは新しいロッド購入の一部に充てた。

 イトウの会では、12月のクリスマスイブから1月末まで会員たちの写真展を開催している。中心になって準備したのは川村で、彼はいま川風景の写真撮影に重点を置いている。イトウの会ホームページのトップページの写真はほとんど彼の撮影による作品だ。

 私は過去17回もイトウ写真展を開いてきた。さすがにいささかマンネリ化してきたので、この辺でイトウの会会員たちにバトンを渡して、自分も一会員の立場で参加したいと考えたりしている。

 新春一番の楽しみは、なんといっても年賀状である。釣り友達からもなん通かもらう。みなさん、気分よさそうに大物イトウを抱いて写真に写っている。メーターオーバーを釣った人は、その数字もしっかり書き込んで誇らしげである。最近はさっぱりメーターに至らない私の場合は、数字などのテキストは一切書かない。それでもイトウ抱っこ写真ばかり年賀状として送りつけていると、保存版にしてくれる人がいてうれしい。

 年を越したといっても、イトウ釣りのシーズン開幕までまだ4ヵ月もある。先は長いのだが、待つことでイトウ釣りのエネルギーは膨大に蓄積されていく。