157話  2010年春始動


 4月最初の日曜日、2010年の釣り初めをした。

 晴天に誘われるように車で外出した。国道40号線を南下すると、春霞でおぼろげな日本海に白銀の利尻山が浮かんでいた。私はいつも庄内の丘から上サロベツ原野ごしの利尻山を眺めて写真を撮る。いつもおなじアングルなのに、その都度山の表情が異なるのが不思議だ。春の利尻山には、冬の壮絶な凄みはなく、稜線と谷筋の雪が暖かく微笑んでいるように感じる。

 サロベツ川も天塩川も雪代増水していた。川は一部の岸辺を呑み込んで、牧草地まで広がっている。畳ほどの氷塊がくるくる回転しながら流下していく。

 稚咲内の森を越えて海岸線に抜けた。日差しは暖かいが、日本海から吹きつける風は強く、波頭がたっている。

 天塩町に入り、天塩川河口部を見た。川にも港にも釣り人の姿はひとりもなかった。町営の温泉夕映に寄ってみた。500円を払って、入浴した。浴槽は2階にあり、高温槽や低温槽や寝そべる槽などがあり、港を見下ろすようになっている。湯はぬるめで、薄口醤油ぎみに濁り、しょっぱい。浴場のわりには浴客が少なく、ひろびろとしているのはいいが、客不足で経営は厳しいらしい。

 天塩町で去年から新しい名物ができた。タコキムチ丼という。おなじメニューが町内8店で食べられるという。あげいんという店で食べてみた。キムチとウニを卵でとじた上に、タコ足を刻んで揚げたカツが乗っている。しじみ汁、タコの内子の塩辛も付いて950円だ。味はわるくない。店の女将に温泉話をしたところ店名を印刷した手ぬぐいをくれた。

開源・豊富間のバイパスが延長され、豊富・幌延間も開通した。まだあたりは雪深いが、路面はきれいに乾いている。幌延から豊富などはあっという間に着く。この道は私が稚内から天塩川に通う道として多用することになるだろう。

 午後になって、アメマス河川にやってきた。下流部に釣り車が数台停まっていた。川はちょうどいい水位で、多少濁っていた。水温は4℃だ。岸辺は硬雪で、キャストにも移動にもじつに具合がいい。この川は、道路から100mも離れていない。岸辺から土手を登りきると、そこは放牧地になっている。むかしは、イトウも居たそうだが、いまはいない。アメマスとヤマベの川である。秋にはシロサケが遡上する。市内にこんな手ごろな川があるのはありがたいことだ。

「よし、ここでやろう」と決めた。2010年の釣り初めである。8ft竿と16ポンドテストのラインは小河川のアメマス狙いにはヘビーすぎるが、私はイトウ用竿しか持っていない。ルアーも大きすぎるが、まあよかろう。釣り座を固めて、いざ第一投だ。ラインがバサッとキンクしたまま飛び出して、さっそくライントラブルだ。数回キャストして糸ふけをとり、ようやく釣りの形になってきた。ドラグ調整もやり直す。

 約4ヵ月もオフシーズンをすごしたが、慣れ親しんだ釣りを忘れるわけがない。すぐに釣技を思い出し、ディープダイバーが手元で浮き上がる感触も味わった。懐かしく無性にうれしい釣りであった。

 2時間ほど上流に向かってキャストしながら歩いたが、魚信はいちどもなかった。日が傾き、気温も下がった。橋のたもとで道に出た。沿道の牛舎で牛がモーモーと鳴いている。カラスが屋根で騒いでいる。海風に向かって歩いた。私のイトウ釣りは5月からだ。それまでこういった釣りをやって、肩慣らしをしておこう。