155話  北極星


 北海道新聞旭川支社が発行する道北版の夕刊に「北極星」というコラムがある。私は20101月から書きはじめた。書き手は複数いるので、だいたい40日間に1回のペースで執筆することになっている。私は医師という理科系の仕事にたずさわっているが、本来は文系の精神構造なので、ものを書くことは好きなのだ。北極星は北の指標であるから、えらそうに持論や人生訓を書かなければならないのかとおもったが、担当の道新記者からは、単なる身辺雑記でなければ、なにを書いてもいいと言われている。それなら楽しみだ。

いまのところ私には、医師、南極OB、イトウ釣り師のみっつの顔がある。医師としては、相手もあることだし、守秘義務で書けないことも多い。ところが、南極のこと、イトウのことならなにを書いても他人のうらみを買うことはまずないだろう。というわけで、第1回はいま南極で活動している阿部幹雄のことを書いた。時期がくれば、イトウのこともどんどん書くつもりだ。

ところでゲストのみなさんは、北極星を都会の空に見ることができるのだろうか。稚内の冬の夜空はくもっていることがほとんどなので、冬の星座は見づらい。だが冬以外の季節の星座は豪勢だ。私は星には強くないので、北極星もカシオペアと北斗七星から突き止める方法でしか探しだせない。現在の北極星はこぐま座のポラリス二等星である。あんまり光も強くなく冴えない星だが、やっぱり存在感はある。

イトウ釣りをやっていて、どうしても方位を知りたくなるのは、河川中流部を川通しに歩いていて、車に帰る道筋を探すときくらいのものだ。私はもちろん地図と磁石は持参しているし、方位を見出す動物的な感覚も持っているとおもう。釣り人によっては、GPSを持ち歩く人もいることだろう。だが、そういう文明の利器がなくても、北極星や太陽や月の動きと意味を知っていれば、方位はだいたい分かるだろう。こういう感覚は、ふだんから太陽光の道筋や風向きをチェックする習慣をもっていると、自然に養われるものである。光と風は、釣り人がフィールドに出るとどうしても気になる現象だから、わりに方位感覚は鋭いとおもう。

チライさんとtorakoさんは、カシオのPROTREKという腕時計巻いている。大きくてカッコいいウオッチなので、「どれ見せてくれ」というと、方位・気圧・高度・気温が分かり、月形や潮位や気圧変動までおおまかに分かる。まさにアウトドアマン、とりわけ釣り人ご用達の腕時計なのだ。私も欲しくなって、先日ようやく入手した。方位計はなんと0度から360度まで自在に動き、ふつうの磁石より役立つほどである。こういった便利な道具でイトウ釣り師の能力はいちだんと上がる。

このように北の指標を見出すと、イトウ釣りには深みがでてくる。北が分かれば、当然のことながら東も西も分かる。季節によって日の出・日の入りの位置が変わることも分かる。渡り鳥がかならずしも北と南へ向いて飛び立つとはかぎらないことも分かる。イトウが小魚を追うルートだって、なにか周期性があるのかもしれない。私は釣りが好きなのだが、森羅万象なんでも知りたい性質で、イトウを中心にしたカレンダーを作りたいとおもっているくらいだ。

コラム「北極星」は道新道北版にしか掲載されないが、インターネットで「北海道新聞旭川支社」から検索してもらえば、容易にアクセスできる。イトウの会ホームページと併せてご一覧いただければさいわいである。