第151話 冬の到来 |
12月はなかなかイトウが釣れない。私が釣れない理由は気象と仕事である。 12月になると、冬将軍が波状攻撃をかけてくる。氷点下の真冬日がつづくと、積雪はなくても、川はどんどん冷えてくる。川の両岸から結氷がはじまり、すこしずつ中央へせり出す。まだこの状態なら川へ行って釣りをすることは可能だ。しかし、西高東低の冬型気圧配置になり、上空に氷点下40℃以下の寒気が吹き込むようになると、どっと雪が降る。農道や林道といった道は、雪に覆われ、除雪車もはいらず、徒歩によるアプローチルートがひどく遠くなる。 それでも冬の寒冷と結氷といった気象は言い訳にしかならない。むかしイトウ釣り名人で湿原の画家といわれた佐々木榮松さんは、厳冬の釧路川で120pのイトウを釣り上げている。現にそのイトウの魚拓のコピーが私の家にある。サハリン通の阿部幹雄によれば、アインスコエ湖では冬に氷下の巨大イトウを捕るのだという。はえなわ漁なのだろうか。 私も40歳代までは、厳冬期になけなしの開水面を見つけては竿をふっていた。釣れなくても、挑戦はくりかえしていた。氷点下10℃の風雪の日に、川に立ち込んで釣りをしたこともある。そういった過激な釣りを今はやる意欲と体力がない。 もうひとつは、11月から12月の週末は仕事で都会へ出張することが多く、宗谷を離れなければならない。往復路のJR車窓に見る天塩川はまだまだ全面結氷していないのに、指をくわえて見ていなければならないのが悔しい。凍りゆく天塩川はまさに絶景である。もやもやと水面下を漂うフラジルアイス、流れのわきに寄り添う蓮葉氷、すっかり固まった氷原の中にくろぐろと流れるひと筋の開水面、もろい氷の上を歩くキタキツネ、河畔の大木のてっぺんに憩うオオワシ。どれひとつとっても凛とした北国の初冬をみごとに表している。 12月の日の出はおそく、日の入りは早い。稚内では7時にようやく日が昇り、16時には沈む。明るいのは9時間ほどだ。昼の時間は6月の約半分だ。さらに冬になると、午前中は気温が低く、氷塊の漂う川では釣りにならないので、釣りの可能な時間はさらに短くなり、正味3時間ほどになる。この間にイトウを釣ることは本当に難しい。 気温が氷点前後になると、ラインはこわばり、リールが凍り、ロッドのガイドが凍る。竿を持つ手、リールを巻く手も手袋が必要で、なにかにつけてトラブルが多くなる。冬の釣りは、冬の登山と同じく、夏の何倍も難しくなる。それだけに、冬のイトウ釣果1匹の価値は、夏の10匹に相当すると私は考えている。 実を言うと12月になれば、釣りどころではないのだ。私の仕事で一番忙しいのが12月である。忙しいときは、頭の回転も速くなっている。短い時間に集中的にものごとを解決していく。仕事を片付けて、なけなしの時間を使って川へ行こうと、意気は盛んである。それなのに週末の日中の3時間がなかなか確保できない。 初冬によくやっているのが、つり雑誌に目を通すことだ。「北海道のつり」の正月号付録には、本流竿でイトウを爆釣した釣行記がでていた。小さなスプーンの先にみみずを房掛けにして、ヒットさせるという。私は本流竿をもっていないので、ふつうのルアー竿で、おなじ仕掛けを真似てもいいのではないかとおもう。「Gijie」2月号には本波幸一さんとアメマス83p・5.2kgが登場した。私は本人から大喜びの写真付きメールをもらったので、即日知っていたことだが、グラビア記事になると、あらためて「さすがだなあ」と思う。本波さんが送ってくれた青森のうまいリンゴをかじりながら、彼の勇姿の載ったページを眺め、正月を迎えることになる。 |