147話  シルバーウィーク


 ことしは春のゴールデンウイークに匹敵するほどの大型連休が9月にも生まれた。その名もシルバーウイーク。イトウ釣り師にとって、ゴールデンウイークはまだイトウが産卵遡上しているころだし、雪代もあって、釣りには早すぎるのだが、シルバーウイークは、爽やかな秋で、釣りにはなんの支障もない。秋のボーナスのような連休を利用して宗谷に遠征した釣り人も多かろう。

 私も自宅からせっせと川に通って、天の恵みのような連休を有効に利用することにした。初日の朝を迎えさあ行くぞと勇んだ。ところが、最初に入川する中小河川に到着すると、増水して泥水が流れているではないか。夜半に降った雨が、案外大量だったのだ。すぐオホーツク海側に転進した。川は増水がなく、ササ濁りで期待をもったが、まったく音沙汰がなかった。再び峠を越え、わき道にそれ、あちこちで竿をふってみたが、完封のボウズであった。最後に大河に立ち込んで、1匹掛けたもののあっという間にフックアウトして、初日は下見ばかりの黒星発進となった。

 二日目は、地道に自分の実績のある川を丹念に攻めることにした。小雨がふっていたが、川は適度なササ濁りで、魚の反応もよかった。合計5回のヒットがあり、そのうちキャッチできたのは36、48、57pの中学生高校生イトウが3匹であった。最近、なかなかまとめてイトウを釣ることができなかったので、3匹を猛打賞かハットトリックみたいに喜んだ。

 三日目もあちこちと渡り歩いた。とあるプールで、50pの怖い顔をした雄アメマスが出た。肥って体高もある立派な体型をしていた。その直後、釣り人の出入りの激しいポイントで釣り残されたイトウ50pをキャッチした。

 四日目は、小さな川で36pを釣った。しかしその後はまったく反応が無かった。

 最終日は、さすがに大物の姿を拝みたくなって大河へ出陣した。川は濃霧に閉ざされていた。白いミルクのなかにルアーをキャストする幻想の世界となった。7時、沖合いに投入したルアーが一瞬止まり、根掛かりかとおもったら、小さな水柱が立って、魚がヒットしたことがわかった。魚は83p・5.4kgの良型イトウで、なかなか強い引きを味あわせてくれた。

 こうしてほぼ毎日イトウの姿を拝むことができたシルバーウイークであった。最近では、長いルートを歩くと脚に疲労が蓄積するので、以前ほど広いエリアを探る釣りができない。その結果、釣果が落ちてきた。いまでは、1日1匹の釣果があればよしとおもうようになった。だから、5日間で6匹もよしとしなければならない。

 シルバー世代という言葉がある。私のように還暦を迎えた60歳以降を意味するらしい。シルバーウイークの連休中には、敬老の日も含まれていたので、シルバーウイークの主役は、シルバー世代だったのかもしれない。シルバー世代を対象としたCMでは、年配の仲睦まじい夫婦などがよく登場する。歳をとってようやく自分を見つめなおす余裕が生まれた世代が、ゆったりと多少ぜいたくをして余生を楽しむといった類である。ところが、イトウ釣りはそういったシルバー世代のイメージにはまったく似つかわしくない。野生イトウを狙う人びとは年齢など無関係の熱中人あるいは求道者といったほうがぴったりくる。私もそうありたい。

私は自分の休日はほぼ全部釣りに費やしているので、川で直射光と反射光を受けてものすごい日焼けをする。そのため日頃は建物のなかで働いている人物にはとうてい見えない。私の頭髪は、まだ全面的に白髪ではないが、いずれは頭がシルバーで、顔が黒いという偉大なヨットマン堀江謙一さんのような風貌になりたいとはおもっている。