142話  データ釣り


 イトウの会掲示板に「次の週末黄金の日々」と私が書き込んだところ、離れた土地に住む釣り師のみなさんが、釣り心を抑えきれずに宗谷にやってきて、それぞれにいい釣りを経験されたようだ。それはホームページ管理者としての冥利に尽きることで、私も非常に満足した。成果をあげた人びとはイトウ釣りに来ることを無上の喜びとし、なんども宗谷に来て釣りをしているベテランで、釣り場も釣法も独自の工夫をしている人びとである。私は、「いま川の状態がいいから、おいで」と声を掛けるだけなのだ。

私の情報は、どこの川へ行けば、イトウが釣れますよと言っているわけではなく、宗谷ではイトウが釣れるから、みなさんおもいおもいのところで竿を振りなさいと言っている。あとは、釣法も釣り場も身の安全も自己責任でやってくれというわけだ。

 イトウ釣りという特殊な魚種の釣りでは、なんといっても現地情報が頼みとなる。現在では、宗谷の気象情報はどこででもチェックできる。河川の水位も河川情報ですぐに分かる。しかし、実際に魚が活性化しているかどうかは、そんな数字だけでは分からない。実際に川をのぞいて、その透明度、色合、水温を確かめ、川からにじみ出るようなサインをチェックしてはじめて釣れるかどうかが判断できるのだ。私はイトウ釣りを20年やって、やっと「きょうは釣れる」と確信できるようになった。単なる山勘ではない。自分のデータの積み重ねから導き出す確信である。それは、私だけではなく、誰もが釣れるという普遍的なサインなのだ。

釣り師がたまの週末を満喫するのに、相手をしてくれるイトウは1匹か2匹で十分だとおもっている。遠くからやってくる釣り人の誰もが7匹も8匹も釣るような事態にはならないほうがよい。そんなに釣れるのであれば、二三匹味見に持って帰る人もでるかもしれない。イトウはなかなか釣れない希少な魚でいい。

イトウは大きな魚だが、すべての釣り師にメーターが掛かることはない。メーターイトウは、年齢にして18歳以上も生き抜いてきた高齢ですこぶる賢い魚である。生涯に一度は釣られて痛い目にも遭っているはずだ。安直な技術や仕掛けで簡単に釣れるわけがない。メーターイトウこそ幻の名にふさわしい釣魚であるべきで、イトウを追い求め腕を磨いてきたベテラン釣り師が一生で1匹釣ればよい。

こうした非常に釣りにくいイトウが、釣れる確率が高くなる日があるのだ。そういう日に釣行をすれば、いつもはイトウが釣れない人でも1、2匹釣れるだろうし、メーターを長年狙っている人には念願の巨大魚が掛かるかもしれない。そういうお手伝いがホームページ上でできればうれしい。

私が1994年から釣ったイトウのデータを残して、一部をホームページ上で公開していることはご存知だとおもう。さらに詳細な釣行日誌があり、それを読めば、ほぼあらゆる条件の下で、どこでどうやってイトウを釣ったかが記憶の底から甦るようになっている。15年間もこうした記録をつけていると、どんな大雨が降ろうが、どんな渇水になろうが、水温が上がろうが、結氷が始まろうが、同じ川の同じ条件の日が過去にはかならずある。それなら、そのときと同じような釣行をすれば、釣れる確率は高くなるのは自明である。

いまプロ野球ではおよそすべてのプレーがデータとして記録され、さまざまな切り口からゲームに利用できるようになっていると聞く。だからこそデータ野球をやるチームは強く、出たとこ勝負のチームは負ける。イトウ釣りもデータ野球とまったくおなじである。