イトウは日本産最大の淡水魚である。学名はHucho perryiと名づけられているが、ペリーとは幕末に黒船で来訪したあのアメリカ合衆国のペリー提督である。アイヌ語ではチライあるいはオビラメという。両者が同じイトウなのか、別の種類なのかは古くから議論がある。サケ科イトウ属のイトウは、産卵しても死ぬことはなく、20年生きて2mにも成長するといわれる長寿命の魚である。体系はどちらかといえば体高が低く体幅が広いずん胴型である。皮膚は銀白色で黒点をちりばめ、目は金環に縁どられ鋭い。頭は平坦で、上顎、下顎ともにがっしりして分厚い。
かつては北海道全土はおろか津軽海峡をこえた青森県にまで生息していたが、いまでは生息環境の悪化や捕獲のため徐々に生息域と生息数を減らし、北海道でも道北道東を中心とするごく限られた自然度の高い河川と湖沼にしかいないといわれている。環境庁(現環境省)は1999年にイトウを絶滅危惧種IBに指定し、絶滅のおそれのある魚として警笛を鳴らした。イトウはロシアのサハリン州や極東シベリアにも生息し、サハリンのアインスコエ湖にはいまだに2mの個体がいる。
マスコミはこぞって「幻の魚」という冠詞をつけてイトウを呼ぶ。北海道の川の生態系の頂点に君臨する王者イトウは、陸のヒグマ、空のシマフクロウとならぶ自然保護の象徴的生物でもある。研究者によるイトウの生息調査は行なわれているが、実際のところ産卵可能な親魚が道内に何匹生息しているかはよく分かっていない。川魚を好む釣り人には、「いつかは釣ってみたい魚」として人気が高く、一年中イトウだけを追いかけるイトウ釣り師も存在する。われわれイトウの会の会員もほぼイトウのみを釣魚とするイトウ釣り師の集団といってもよかろう。
釣魚としてのイトウの魅力は、第一にその並外れた大きさである。「イトウの会」会員の釣り上げた最大魚は110cmである。しかし現在でも北海道には150cmの巨大魚がいるという伝説がある。第二の魅力は幻の魚と呼ばれる希少価値であろう。そう簡単に釣れないから、「イトウの会」は知識と経験と情報を総動員して、途方もないエネルギーと時間を費やしてこの名魚を追うのである。ある会員はイトウを毎年100匹前後釣り上げては放流している。これが希少価値といえるかどうかは議論のあるところだ。第三の魅力は野武士にもたとえられる独特の風格である。いちど野生のイトウに巡り合うとそのトリコになる。無性にまた会いたくなる。なぜかは分からないが、それは会員の各人が認めている。
2004年4月1日
「イトウの会」会長